腐敗を許さない空気は社会全体に

作家の佐藤優氏(右)と慶應義塾大学法学部教授の片山杜秀氏(左)

【佐藤】腐敗を絶対に許さない空気は政治の世界だけでなく、社会全体に広がっていきました。97年に起きた第一勧業銀行と四大証券会社による総会屋利益供与事件もそうです。株の世界がきれいごとで動いているなんて、誰も思っていなかった。にもかかわらず、それまで黙認されていた利益供与を摘発した。

90年代半ばから使われるようになったパチンコのプリペイドカードも同じです。プリペイドカードの登場によってパチンコ店の財務状況が透明化されるとともに、怪しげな両替所や景品交換所が整理されていった。

【片山】それは92年に施行された暴対法と密接に関係した流れですね。社会を正常化していくなかで、社会の調整役でもある総会屋ヤクザを追い立てた。そして、白でもなく黒でもない曖昧な領域や、国家や個人の間に存在した中間団体を認めない社会になっていった。暴対法で暴力団は生きていけない。労働組合もイデオロギーが機能せず成り立たない……。

【佐藤】モンテスキューは『法の精神』で民主主義を担保する存在が、教会やギルド(職能集団)などの国家と個人の間に位置し、個々を束ねる中間団体だと語っています。民主主義を担保するのは三権分立ではなく、中間団体だ、と唱えた。

しかし法の支配を徹底した結果、曖昧な存在や中間団体が排除され、法に縛られない掟の領域や慣習の世界を認めない窮屈な社会になってしまった。

【片山】この頃からすべてをオフィシャルに透明に一元的に把握しようという流れが強くなりましたね。

曖昧で多元的なものを数多く機能させる社会からそうでない社会へ。平成の社会史の根幹の流れで、管理しやすく、されやすくなるかわりに、はかれない有機的強さというか、どこか潰れてもまた別の根っこが出てくるみたいな強靭さは、社会からどんどん消えていった印象があります。そこでオルタナティヴ(既存のものにかわる新しいもの)とか言ってへんな人がでてきて、脆弱な利権を新たに作っているという、そんな印象もありますけれども。

それから97年には消費税が3%から5%になりました。消費税ということでは同じですが、パーセンテージが消費税の社会における存在の重みを決める、つまり数が質に転化しやすいのが消費税なので、5%というと存在感は増してきますね。