タバコを吸わない者の「受動喫煙」を防止することを定めた健康増進法が施行されて6年、喫煙者への風当たりはますます強まっている。

そんななか、一部の企業では、「分煙」を通り越し、採用時、喫煙者と非喫煙者とで差をつける場合も出てきた。セントラルスポーツ(スポーツクラブ)、星野リゾート(リゾート運営会社)、ライブレボリューション(モバイル広告代理店)などでは、「入社までに禁煙すること」を人材の採用条件としているほどである。

とはいえ、新入社員がそのような会社への就職を機に禁煙しようとしたが失敗したり、会社では喫煙せずに喫煙習慣を隠すといったことも考えられる。これが発覚した場合、解雇されても文句は言えないのだろうか。

まず、喫煙で採用に差をつけること自体の是非について検討してみよう。タバコを吸うかどうかは、個人の趣味嗜好の問題である。もちろん、禁煙の職場で喫煙するのは論外だが、直感的には、禁煙を採用条件に据えるのはゆきすぎであるようにも思える。

しかし、法律上は、企業に「採用の自由」が認められている。採用の自由とは、民法における大原則である「契約自由の原則」から派生した概念とされ、文字通り、誰をどのような条件で雇用するかは雇用主の自由とするものである。

ただし、その自由もまったく制約がないわけではない。例外的に、業務内容と直接関係のない理由で不採用とすることは許されないとするのが、主流の考え方になっている。問題は、「業務内容と関係の薄い理由」とは具体的にどういうことなのか、という点だ。

たとえば、出身地域によって採用を差別したり、既婚で子持ちの女性だからという理由で採用を見送ったりするのは、一般に違法であるとされている。

しかし一方、過去には、ある就職志願者が、いわゆる「60年安保闘争」の学生運動を主導していたことを理由に、採用を拒否された「三菱樹脂事件」で、当時の最高裁判所が、企業側の不採用を「当然に違法とすることはできない」として支持したこともある。

この結論に対しては、「業務内容と関係の薄い理由での不採用であるうえ、憲法が国民に保障している思想信条の自由を害し、労働基準法三条が定める、『信条による差別待遇の禁止』にも反するものだ」として、憲法学者が中心となって強い批判が浴びせられた。