君は、1枚の投書を捨てるのか、感じるのか

しかし、その1枚の投書に、私はハッとなったのです。包装が邪魔に思える気持ち、包装にある賞味期限というきわめて重要な情報を残さなくてはいけないという実感に、共感できたのです。そこで、お客様がどうしているのかを調査することにしました。

調査では、50%のお客様が包装をそのまま捨て、なにもしていませんでした。残る50%のうち、さらに半数の人は、包装を捨てずに最後まで使い切っていました。残りの人は、容器に黒いマジックで賞味期限を書いていることがわかりました。

そこでマヨネーズのキャップの部分に賞味期限を印字するという発想が生まれたのです。すべてを一から作ったので、工場に新しい機械を入れるなど、お金も時間も随分かかりました。競合他社がこの金脈に気づいていなかったこともあって、発売後、大きな反響を生みました。たくさんお褒めの言葉もいただくことができて、本当にうれしかった。

さらには、ほとんどの人が気づいていないかもしれませんが、自分の実感から商品を改善したこともあります。

未開封のマヨネーズについている銀色のシールのことです。かつては、他社も含めて、空気が残らないようにキャップとマヨネーズの中身の間へ窒素を充填(じゅうてん)していました。しかし、この方法ではどうしても微量の空気が残ってしまう。空気に触れたマヨネーズは酸化して味が変わってしまうので、買ってきて一口目のマヨネーズはまずくなってしまう。自分がお客様でそのことに気づいたらがっかりですよね。そこで真空シールを開発したのです。

売れる商品を作るということは、1人のお客様との直接対話から始まるのです。相手のことを一番よくわかっていないと仕事にはなりません。マヨネーズは毎月100万人以上の方にご購入いただいています。しかし、そのお客様の6割が「満足している」という情報は、商品開発にとって何の意味もない情報です。

むしろ、たった一つの特異な意見を自分のバックグラウンドをフル動員して分析する。ひょっとすると“百、千、万”に化けるきっかけではないのかと考えるのです。