「経営計画書」は立派な会社をつくるための道具なのに、道具を使うことはない。せっかく数字や方針を明記しても、実行がおろそかになっていました。当時の私は、多くの社長がそうであるように、「立派な会社」ではなく、「立派な<経営計画書>をつくること」が目的になっていたのです。
道具は、使われてこそ価値があります。どんなに優れた道具でも、いつも手にするところになければ、宝の持ち腐れです。そこで私は、A4サイズから、常に持ち歩ける「手帳型(B6変型サイズ)」に変更しました。
手帳型の「経営計画書」を一倉定先生に見せたところ、「おまえは<経営計画書>を冒涜する気か!」と烈火の如く叱り飛ばされました。私は、「すみません! すぐにつくり直します!」と頭を下げましたが、つくり直すつもりはありませんでした。
一倉定先生はたしかに唯一無二の存在であり、私も師と仰いでいます。ですが、先生は「社長」として経営の実務に携わった経験がありません。現役社長の私が求めていたのは、重厚でなくても、立派な装丁でなくてもいいから、携帯性に優れ、「すぐに使える」ことです。「経営計画書」は、社員が「どう行動すればいいか」迷ったときの道標です。ですから、社員全員が携帯できなくては意味がないのです。
数字と期日を紙に書くと、人はそこに向かう
私は以前、荻窪駅近くに建つ「25坪」の家に住んでいました。ある年のお正月にリビングでお酒を飲んでいると、妻がこんなことを言いました。
「お父さん、もっと広いおうちに住もうよ」
ほろ酔いで気分良くなっていた私は、
「まかせなさい! 5年以内に今の倍の家を建ててあげるから!」
と、いい加減な返事をした。根拠はありません。デタラメです。すると、妻は、「口約束は信用できないから、紙に書いて!」と言います。