高齢者を「囲い込み」して、税金を“浪費”する悪質業者
Iさんによれば、もうひとつ大きな変化があります。それは介護サービスも行う運営会社が増えている、ということです。そうした運営会社は、入浴などのデイサービスの拠点やヘルパーステーションをサ高住と同じ建物に設置しています。
これは利用者にとってはありがたいことに思えます。在宅介護でデイサービスを利用する場合、同じ建物内に施設があれば、送迎のクルマは不要で、エレベーターに乗るだけで済むからです。また、身近にヘルパーステーションがあれば異変が生じた時もすぐに対応してくれます。
しかし、Iさんは「利用者の受けられるサービスが限定されてしまう恐れがある」と懸念を隠しません。
本稿の前半で、サ高住で受ける介護サービスは“基本的に”在宅と同じと書いたのは、このためです。本来、介護サービス(掃除や食事作りなど)は利用者が自由に選択できるものです。だから、現在受けているサービスに不満があれば、ケアマネを通じて事業者を替えることができます。利用者は担当ケアマネを信頼し、要望を伝える。ケアマネはあくまで公正中立の立場で利用者の意をくみ対応する。この関係性でよりよい介護を模索するわけですが、サ高住が介護事業も手がけるとこの原則が崩れてしまう恐れがあります。
「介護事業を行っているサ高住では、ケアマネの変更を入居条件にしていることが多いのです。つまり自社の担当ケアマネでなければ入居できないというわけです。そうしたケアマネは当然、自社のサービスを優先してケアプランを作成します。家賃収入だけでなく、介護報酬も得られるように動くことがあるわけです」
▼不要な介護サービスを受けさせ、儲ける手口
そうしたケアマネは会社の利益に貢献するため、利用者の要介護度に応じて介護保険の上限額いっぱいまでケアプランを立てる傾向があります。つまり売り上げのために、必要のないサービスを受けさせることもあるようなのです。またサービスに問題があったとしても、その会社のサ高住に入居しているわけですから、簡単には変えられません。
こうした実態をうかがわせる調査もあります。在宅で介護サービスを受けている高齢者(要介護1~5)の場合、支給限度額の4~6割が一般的(厚生労働省調べ)なのに対し、大阪府が2016年末に公表した報告書によれば、サ高住(大阪府内)の入居者は7~9割にも達していたというのです。限度額ぎりぎりまで介護サービスを利用することは違法なことではありません。しかし、逼迫している国の介護保険の財政にさらなるダメージを与える可能性があります。
厚労省は過度の囲い込み対策として、サ高住の併設事業所が訪問介護を提供する場合、報酬が1割カットする、といった介護報酬を減らす制度も設けました。
以上のように、急増するサ高住には問題のある施設もあるようですが、Iさんは「悪いサ高住だけではなく、良いサ高住も増えています」と話します。次回は、そうした「良いサ高住の選び方」についてご紹介したいと思います。