どうすれば介護のストレスを減らせるのか。厚生労働省によれば日本国内の要介護(要支援)認定者数は、643.7万人(男性201.6万人、女性442.1万人)。これだけ多ければ、介護者が暴力に及ぶケースもある。あるベテランケアマネジャーは「介護に向いている人なんかいない。満足のいく介護ができなくても、自分を責めることはしないほうがいい」と語る。介護の現場で孤立する人の心理とは――。

要介護の親への暴力が増え続けている背景

子供が要介護となった親に暴力をふるうなどして虐待する件数が増え続けています。

自宅で要介護者(親など)の世話をしている子供などによる虐待件数(※)は年間1万6384件(前年比408件増)。もちろん、これは氷山の一角だと思われますが、驚くべきことにこの数字は介護職員による虐待件数の約36倍になっています。

※厚生労働省「2016年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査」(2018年3月発表)

介護における虐待の主な種類(出典:東京都福祉保健局ウェブページ)
●身体的虐待
暴力的行為によって身体に傷やアザ、痛みを与える行為や外部との接触を意図的、継続的に遮断する行為
●心理的虐待
脅しや侮辱などの言葉や態度、無視、嫌がらせ等によって精神的に苦痛を与えること
●性的虐待
本人が同意していない、性的な行為やその強要
●経済的虐待
本人の合意なしに財産や金銭を使用し、本人が希望する金銭の使用を理由なく制限すること
●介護・世話の放棄・放任
必要な介護サービスの利用を妨げる、世話をしない等により、高齢者の生活環境や身体的・精神的状態を悪化させること

ケアマネジャー歴15年のMさんは最近、「介護に向いている人はどんなタイプの人物か」ということを考えているといいます。考えるようになったきっかけは、担当して半年ほどがたつ利用者の家族、Kさんからの相談でした。

「Kさんは50代の独身女性で会社勤めをしています。78歳のお母さんと同居しており(父親はすでに他界)、そのお母さんが認知症を発症、要介護1と認定されたため、介護生活が始まりました」

要介護1ですから、常に家族が寄り添って介護しなければならないという状態ではありません。トイレは自分で行けますし、身のまわりのこともある程度はできる。入浴で介助が必要なぐらいだったといいます。

▼認知症の母に暴言を吐く「管理職の50代の娘」

Kさんは管理職でしたが、会社に親の事情を話してできるだけ早く帰宅するようにして、休日はすべて介護に充てたそうです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Nayomiee)

「Kさんはお母さん思いでしたし、状況から見て良い介護ができると思いました。ただ、Kさんにとって、お母さんが認知症になった現実は受け入れがたいほどのショックだったようです。それまでは、普通に話をし、笑い合い心を通わせていました。でも、会話は成り立たなくなり、訳の分からないことをすることもある。それがショックで、『なんでこんなことができないの!』と声を荒らげるなど高圧的な態度で接するのが当たり前になってしまったといいます」

認知症の介護に苦しむ近親者は全国にたくさんいます。料理など手が離せないときに限って危ないことや汚いことを突如始める。夜はぐっすり寝てくれることは少ないから親も自分も睡眠不足になる。きょうだいがいても見て見ぬふり。親戚もほとんどフォローしてくれない。にもかかわらず、「本当につらいのは本人(親)だ」と言う。介護する側の自分にはもっと自由にもっと楽しく暮らす権利があるはずなのに、我慢して当たり前……。毎日が究極のストレスとの戦い。一人ぼっちの孤独な介護により精神的に追い詰められ、親をたたいたり足蹴にしたりするというケースも少なくありません。