反日ドラマの役者たちの思い
彼らはどういう思いで日本兵を演じているのだろう。待機時間に地べたに座りながら、雑談がてら話を聞いた。役者たちは20代がほとんどで、私が日本人だと伝えると興味津々で話しかけてきた。生身の日本人に接する機会が少ないため、珍しいのだろう。ひょろりとしてあどけなさの残る20歳の男性役者に、この道を選んだ理由を聞いた。
「高校を卒業してから友達に誘われて、何となくこの世界に入りました。本当は時代劇をやりたいけど、日本兵役の方が需要が多いんです。日本兵を演じることに中国人として葛藤がないわけではないけど、生活のためもあってやっています」
別に反日思想に燃える愛国青年でもなければ、俳優になって一攫千金を夢見ているわけでもない。日本の多くの若者たちがそうであるように、彼もまた、何となくこの仕事を始めたというのだ。
映画村で撮影されている作品の半分以上が反日モノで、彼に与えられる役のおよそ6割は日本兵とのこと。好むと好まざるとにかかわらず、下っ端のうちはどうしても今日のような「その他大勢の日本兵」を演じることになるらしい。
日本に対してどんなイメージを持っているのか聞いた。
「抗日ドラマの日本兵を演じたからといって、それで日本を嫌いになることはないよ。とはいえ日本のことは、元々好きでも嫌いでもないけどね」
そう言って私の方を見ながら、薄闇のなかで苦笑いした。あくまで仕事と割り切ってやっているようだ。過剰な表現手法については、どう思っているのか。
「荒唐無稽なものはバカバカしくて見る人はいない。でも、芝居なんだから多少の誇張や脚色はあって当然だよ」
「全体のストーリーはよく知らないんだ」
この日の撮影シーンの前後関係や設定年代が知りたい。だが、聞いてみると、「全体のストーリーは、実はよく知らないんだ。自分の出る部分だけ、言われた通りに動けばいいんだから」
という。監督の言われた通りに動くのが、役者の使命ということなのだろう。そもそも歴史的事実などというものには、大して興味がないらしい。悪気がないともいえるが、何も考えていないともいえる。何も考えずに悪辣な日本兵を演じているのだから、逆に恐ろしくもあるわけだが……。
給料はどのぐらいもらっているのか。
「日給100元(約1500円)ぐらい。月給は3000元(約4万5000円)弱かな」
住まいは映画村近くの賃貸住宅を借りていて、家賃は300元(約4500円)。下積み時代の役者の生活が苦しいのは世界共通かもしれないが、贅沢をしなければ生活はできる金額だ。