消された「人民の貞子」

その後、中国の動画サイトで“問題作”として話題となった反日短編ドラマがある。中国でもヒットした日本のホラー映画「リング」の主人公、貞子を反日ドラマ仕立てに仕上げたパロディ作品だ。

ドラマのなかでは、日本兵から奪ったフィルムを中国兵が再生すると、画面のなかから、あの貞子が出てくる。だが、中国人民の優しさに触れた貞子は次第に人間らしい心を取り戻し、中国共産党に入党。村の青年と愛し合うようになる。だが、そこへ日本軍が攻撃を仕掛け、村は全滅。復讐心に燃えた彼女は「人民の貞子」となって、日本軍に報復するというものだ。

ワンパターンに凝り固まった従来の反日ドラマに対する、ある種の風刺や諧謔も込められているのだろう。見ると、今までにない新世代らしいユーモアすら感じるのだが、中国共産党はこんな作品は許さなかった。動画は公開から間もなく削除され、中国国内ではもう見ることができなくなっている。

いつか、こんな自由闊達な“反日ドラマ”にあの役者の卵たちが出てくれたらと夢想するが、それがいつになるかはわからない。

西谷格(にしたに・ただす)
フリーライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に『この手紙、とどけ!106歳の日本人教師歳の台湾人生徒と再会するまで』『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』『上海裏の歩き方』、訳書に『台湾レトロ建築案内』など。
【関連記事】
中国の"うそディズニー"でバイトしてみた
なぜ上海中心部で"街娼"が増えているのか
中国人が"日本の産婦人科"に殺到する理由
中国人がコース3万円を"安い"と喜ぶワケ
韓国が"5G五輪"の虚報を流す切実な背景