これに対し、ジェームズ・マティス国防長官は昨年9月18日、「多くの軍事的選択肢があり、その選択肢には、北朝鮮の報復攻撃でソウルが危険に晒(さら)されない方法も含まれている」と述べました。何らかの電撃的な「斬首作戦」があるのか、あるいは開戦と同時に、38度線のロケット砲を一網打尽にする作戦があるのか、真意はよくわかりません。しかし、マティス国防長官の言うように、「人質」に危害を与えず、北朝鮮を攻撃することが可能ならば(手品のような話ですが)、作戦の実行があるかもしれないと多くの人が考えたと思います。

キューバ危機は「抑止政策」で回避できたが

一方、先制攻撃をしないのであれば、従来通りの「抑止政策(抑止理論)」に回帰するしかありません。抑止政策とは、相手が攻撃的な行動をとった場合、こちらは報復的措置をとると威嚇して、相手に攻撃的な行動をとることを思いとどまらせることをいいます。

また、攻撃を思いとどまった場合、あるいはその手段を緩和・放棄した場合には、相手に報償を与え、攻撃を抑止しようと試みる場合もあります。さらに報復と報償を組み合わせ、攻撃的行動をとることによって得られる期待利益より、攻撃的行動をとらないことによって得られる期待利益の方が大きいと、相手が判断できる状況を創り出す場合もあります。

冷戦時代、キューバ危機などの幾度かの危機を経ながらも、アメリカとソ連の間で核戦争が起きなかったのは、このような「抑止政策」が効いていたからだと言えます。では、「抑止政策」は北朝鮮に効くのでしょうか。北朝鮮は事実上、核保有国家と見なされています。北朝鮮に核攻撃を思いとどまらせることを保障することはできるのでしょうか。

冷戦時代、アメリカにとって、抑止政策の主なターゲットはソ連でした。アメリカはソ連が理性的な国家であり、「攻撃を行った場合の期待利益<攻撃を行わなかった場合の期待利益」という式を合理的に判断することを前提にしていました。このような「了解」に基づいてジョージ・ケナンが打ち立てようとしたのが、核先制不使用(NFU/no-first-use)の原則です(※注1)