残念ながら、企業側はまだ消極的だ。政府の働き方改革に賛同する経団連の榊原定征会長は「経団連として会員企業に対し、旗を振って副業・兼業を推奨するものではない」(2017年12月18日記者会見)と否定的意見を述べている。経営者が社員に対して「社業に専念せよ」と思うのは当然かもしれない。

一方、労働者側は「副業をやってみたい」という人が多い。人材採用支援のエン・ジャパンの調査(2018年2月)によると、正社員のうち「現在副業している人」は8%、「過去に副業をしたことがある人」は33%、「したことはないが興味のある人」は53%、そして「副業に興味がない人」はわずか6%だった。

市長の「戦略推進マネージャー」に395人が応募

そこで興味深い動きがある。広島県福山市が昨年11月、転職サイトの「ビズリーチ」上で、兼業・副業を前提とした人材募集を行ったところ、395人の応募が集まったのだ。このうち5人が今年3月から福山市で働いている。仕事の内容は人口減対策の若者定着や女性の子育て支援に関わる施策の企画・推進。「戦略推進マネージャー」として民間企業の立場から市長などに助言する。

副業で募集した動機について福山市企画財政局の中村啓悟部長は「本来なら中途採用するべきでしょうが、さすがに首都圏の優秀な人材が転職するとは思えない。政府も兼業・副業の推進を唱えていますし、兼業・副業であれば民間同士のように情報漏えいのリスクも低いし、来てもらえるのではないかと考えた」と語る。

それでも応募者395人には驚いたという。内訳は男性が9割で、その大半が首都圏在住だという。年齢は30~40代が約6割を占め、業種はコンサルティング会社、製造業、金融機関など多彩だった。実は当初の採用予定は1人だけだったが「絞り込むのは難しく、しかも優秀な人が多いので市役所のさまざまな分野で活躍してもらおう」(中村部長)ということで5人になったそうだ。

転職サイト「ビズリーチ」での募集ページ。現在は募集は終了している。