上司や顧客の都合で業務量が決まってはいけない

以上を念頭に、今回取り下げになった裁量労働制法案の妥当性を改めて検証しよう。

その柱は、企画業務型裁量労働制に、課題解決型提案営業の業務、および、企画立案と現場への展開のPDCAサイクルを通じた社内制度の改善業務を追加するとともに、労使委員会決議の本社一括届出など手続きを簡素化することであった。労使委員会とは、企画業務型裁量労働制の導入にあたり設置が義務付けられている委員会で、使用者及び労働者の代表を構成員とし、適用する業務の具体的な範囲や健康確保のための措置内容などについて話し合う。

こうした規制緩和が志向された背景には、適用労働者割合が「専門業務型」で1.4%、「企画業務型」は0.4%(※3)と、普及が進んでいないことがあり、とりわけ「企画業務型」について、導入手続きの煩雑さが普及の妨げになっているとの指摘があった。

では、適正運用に向けた2つの条件はクリアできていたのか。まず、1点目である「裁量性の高い労働者のみにきちんと適用されるか」について、実は裁量労働制の本旨を徹底するとして、「始業及び終業の時刻の決定」が労働者に委ねられることのほか、勤続年数に関する大臣基準を定め、少なくとも3年の勤務が必要であることを明確化するなどの改善策が法案には盛り込まれていた。

しかし、その有効性には不透明さが残る。既にみたように、手順の裁量性があっても仕事量の裁量性がない場合が問題であり、その際に業務量を適正にするための具体的な仕組みは明示されていない。この点を掘り下げれば、業務量の裁量性が乏しいタイプとしては、上司に業務量を決められているケースと、顧客の都合で業務量が決められるケースが考えられる。

裁量労働制が適正に運用されるためには、前者のケースでは業務量の決定に関して労働者の声が十分に反映される仕組みが必須であり、後者のケースでは、上司が適切に介入して労働者の業務量を調整することが必要になる(※4)。行政には、そうした適正運用のためのガイドラインやチェックリストを作成することが求められよう。

労働時間の上限規制の導入も必要か

適正運用の2つ目の条件である、「過重労働防止のための健康確保措置」もあいまいな印象を受ける。客観的な方法その他適切な方法により労働時間を把握する、とされていたのは評価されるべきである。しかし、具体的な方法については「高プロ制度」の健康確保措置(具体的には後述)に比べて不明瞭ともいえ、「高プロ制度」のケースを少なくとも下回ることのない最低ラインを明示することが必要であろう。

より具体的には、手順も仕事量も裁量性がある場合は「高プロ制度」と同等でよいが、手順の裁量性があっても仕事量の裁量性が担保できない場合には、「勤務間インターバル規制」あるいは労働時間の上限規制の導入を義務付けるべきである。「勤務間インターバル規制」とは勤務終了から次の勤務開始までに一定時間の休息を保障する仕組みだ。

(※3)平成29年『就労条件総合調査』
(※4)高見具広(2016)「働く時間の自律性を巡る職場の課題」『日本労働研究雑誌』No.677