「給与が高いから、安いモノは作れない」は幻想

しかし、実際には日本企業も中国に工場を造り進出していますし、開発担当者の給与は中国や韓国のほうが日本よりも高いのです。「日本は給与が高いから、安いモノは作れない」という考えは幻想にすぎません。また、中途半端な選択と集中を行っているため、新しいことに対するトライ・アンド・エラーにも臆病になっています。このように効果も効率も追求し切れない状況が、日本の家電産業を弱くしたのではないかと思います。

今後の日本の家電メーカーにとって何よりも重要なのは、それほど複雑なことではありません。これまでは技術開発に投資をするだけでリターンが得られましたが、それだけではだめなのです。何のために何をするのかを、ビジネス全体を見据えて判断する。言い換えれば、まともな経営をするということです。

終身雇用が定着している日本企業では、経営者は社内からの昇進組が多く、過去の事業における実績の“ご褒美”として登用されるケースが一般的です。しかし、事業部門の技術トップがそのまま社長になって技術開発にだけ目を向けていては今日の競争には生き残れません。事業レベルの戦略と全社レベルの戦略では求められる能力が異なります。

経営力の強化にもっと資源を投資すべき

日本の家電メーカーの現場は依然として強く、技術やノウハウは蓄積されています。現状は、その現場力が、うまく収益化できていないだけなのです。一方、技術的な優位性を持たなくてもそれ以外の経営資源を伸ばすことで全体として競争優位を築いている米国や中国の企業が多く存在しています。日本企業も経営力の強化にもっと資源を投資すべきです。

外部からトップを招くことで経営力を強化したのが、シャープであり、東芝の白物家電の会社である東芝ライフスタイルです。両社とも1年足らずで業績が回復しましたがそれを可能にしたのは、現場の強さに加えて、台湾や中国から優れた経営能力を持った人が送り込まれて、経営が改善されたからです。

最近の白物家電の好調さは、日本の家電産業にモノづくりの基礎体力があることを示しています。日本の技術力に優れた経営力が加わることで、日本の家電産業は復活できるはずです。

長内 厚(おさない・あつし)
早稲田大学大学院経営管理研究科教授
京都大学大学院修了、博士(経済学)。1997年ソニー入社。映像関連の商品企画・技術企画、新規事業部門の商品戦略担当などを務める。2007年研究者に転身。神戸大学経済経営研究所准教授、早稲田大学商学学術院准教授などを経て16年より現職。
(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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