新しいリーダーが来ると、部下の不安レベルは上昇する。彼らはこの先表れる可能性がある脅威やチャンスを予想できるよう、新しい上司を値踏みし、その優先事項や人となりを読み取ろうとする。ビルがマークについてそうだったように、新しい上司がなぜこのように行動しているのかわからない場合には、部下はそれを状況が要求していることととらえるより、上司の人となりやスタイルのせいにすることが多い。

同時に、新しいリーダーは、部下の言葉や行動から結論を引き出している。調査の示すところでは、ほとんどの上司、一部の調査によると90%以上が、部下を早々と、あてにできる部下(内集団)とそうでない部下(外集団)という2つのグループに分類する。調査によると、新リーダーは、部下の言動から察知される知性、協調性、自信、自発性に基づいて、就任から5日目という早い時期にこの分類を行っている。だが、観察時間がきわめて短いことを考えると、誤解の可能性は高いのである。

間違ったレッテルを貼られた部下が上司の認識を変えるのはきわめて難しく、部下の側でも上司についての第一印象は簡単には変わらない。

レッテルは行動や結果がどのように解釈されるかを決定する。それは行為と結果の複雑な関係がいかようにも解釈できる組織で広く見られる。また、ストレスのある状況や個々人に距離がある状態で活動している場合に強くなる。そのうえ、レッテルはそれと一致する行動を引き出す傾向がある。間違ったレッテルが貼られてから一週間もしないうちに、部下のパフォーマンスに大きな違いが表れることがある。

たとえば、新しいリーダーが部下の一人について「助けが必要」と判断したとすると、リーダーはその部下に、具体的な指示を与え、結果を念入りに観察し、トラブルの兆しが見えたらすぐに手を差し伸べるという形で対応することが多い。このような措置は、助けのつもりでも、次の2つの理由から往々にして正反対の作用を及ぼす。

部下は「箱の中に閉じ込められて」いて、頭角を現すことができない。決まりきった仕事と少ない資源しか与えられず、自由がほとんどない場合、内集団の同僚と同等のパフォーマンスがどうして期待できよう。さらに上司の管理的なアプローチが意欲を奪う。外集団の部下は細かく監視され、低く評価されていると感じて自信を失い、何をしてもボスは評価してくれないと判断して、リスクをとったりアイデアを出したりするのをやめてしまう。これこそがビルとマークの間に生まれた破壊的な力学なのだ。

新しい上司に悪い第一印象を持った部下のほうも、自己実現的な反応を掻き立てるような行動をとる。たとえば、その上司との最初の話し合いのとき、警戒心を示したり自己防衛的にふるまったりして、上司に不安を抱かせ、観察しようという気にさせるのだ。