iPS細胞の論文捏造は研究者の「雇用不安」が原因か

それに続く6月14日に安倍政権が閣議決定した「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」の中ではこう述べられている。

「労働契約法の若手研究者のキャリア形成に対する影響を懸念する指摘もあることから、研究現場の実態を踏まえ、研究者等のキャリアパス、大学における人事労務管理の在り方など労働契約法をめぐる課題について関係省が連携して直ちに検討を開始し、1年を目途に可能な限り早急に結論を得て、必要な措置を講ずる」

抽象的な言い回しであるが、ここでも研究者のキャリア形成、つまり前述した「無期雇用が研究者の能力開発の機会を奪う」という表向きの理由を掲げ、要するに研究者を労働契約法の適用除外について検討せよ、と言っているのだ。ちなみに改正労働契約法は民主党政権時代に国会で成立したものだが、安倍政権は成長戦略の名のもとで研究者の雇用安定よりも非正規の状態を存続させることを選んだことは注目すべきだろう。

しかし、労働契約法を改正するとなると、手続き上、公益委員、労働者委員、使用者委員の3者で構成する厚労省の「労働政策審議会」で議論する必要がある。当然「研究者だけをなぜ適用除外とするのかと」いう労働者委員の反発も予想される。また、もともと無期転換に反対していた使用者委員にしても「大学だけを特別あつかいするのであれば、うちの業界も適用除外にしてくれ」という意見が出るかもしれない。そうなれば審議に時間がかかるし、改正法案成立も危ぶまれる。

▼なぜ政治家が突然、議員立法で改正法案を提出したのか

そこで浮上したのが議員立法だった。2013年10月31日。自民党科学技術・イノベーション戦略調査会(塩谷立会長)が議員立法で臨時国会にすでにある「研究開発力強化法」を一部改正する法案を提出することを決定した。

2013年10月31日、議員立法で労働契約法に特例を設け、科学技術に関する研究者または技術者などの無期転換制度の通算契約期間を5年超から10年超に延長した(写真=iStock.com/fotokon)

この法案では、労働契約法に特例を設け、労働契約法第18条第1項の無期転換制度の通算契約期間を5年超から10年超に延長した。

具体的な対象者は(1)科学技術に関する研究者又は技術者、(2)研究開発の企画立案、資金確保、知的財産権などを担当する専門的知識を持つ人、(3)大学などと共同研究する民間企業の研究者――である。

議員立法は内閣提出法案と違い、厚労省や文科省など関係省庁の手続きを経ることはない。もちろん、労働政策審議会で議論する必要もない。法律の作成に当たっては内閣法制局の手は借りても、行政手続法による1カ月前の公表やパブリックコメントの募集も不要だ。

しかも当時は、特定秘密保護法の成立を巡って世間の注目を集め、国会が紛糾している最中の11月27日に法案が国会に提出された。その結果、衆・参両議院で十分な審議を経ないまま、わずか9日間という早業で可決・成立したのである。