多くの業種で「人手不足」になっている。転職市場も好調で、36歳以上の転職はかつての3倍に増えている。だが、そうした状況でも7割の人は転職後に給与が減っている。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「高額報酬を獲得する人と、年収減に転落する人に2極化している」という。なにが起きているのか――。

「35歳転職限界説」は崩壊し、40代の転職も増えている

景気回復を背景に人手不足が深刻化している。

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日本銀行が4月3日に発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、主要28業種のうち約4割にあたる11業種で人手不足の指標が過去最悪となった。

厚生労働省が発表した2月の有効求人倍率(求人数÷求職者数)は1.58倍、正社員は1.07倍。依然として1975年のオイルショック前の好況期の水準が続いている。

これらを受け、転職市場も活況を呈している。転職者数も2013年は287万人だったが、16年は307万人、17年は311万人に増加している(総務省労働力調査)。

転職エージェント業界の最大手リクルートキャリアによると、3月の転職求人倍率は1.77倍。職種別の求人数は前月比で34職種中11職種が増加。登録者数も13職種が増加し、うち9職種は過去最高となっている。これは転職支援サービスの「リクルートエージェント」の求人であり、転職エージェントに手数料を支払ってでも人材がほしいという企業が多いということだ。

職種だけではない。

すでに「35歳転職限界説」は崩壊し、40代の転職も増えている。日本人材紹介事業協会が調査した「人材紹介大手3社転職紹介実績の集計結果」によると、転職した36歳以上の伸び率は05年上期を100とすると、16年下期は296%と増加している。

▼極度の人手不足、転職環境の好転でも、給与は……

極度の人手不足、転職環境の好転……となると期待したくなるのが給与面だ。各種調査で転職理由を聞くと、その上位は常に「給与に不満がある」だ。しかし、転職した人は、必ずしも給与がアップするわけではない。

人材紹介業大手のJACリクルートメントの黒澤敏浩フェローはこう指摘する。

「景気がよいので転職しやすくなっているといっても基本的には給与は前職と同じか、下がるのが通常です。現在の会社でそれなりに貢献していても他の会社に移ると仕事の環境が変わるので当初はパフォーマンスを出せない。給与を下げて入るのが一般的です」

リクルートキャリアの調査では、前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合は2013年度以降5年連続で伸びている。ところが、その数値は最新の2017年度でも29.7%でしかない。つまり、残りの7割が横ばいか、下がっていると思われる。