捏造した助教も2018年3月末が雇用期限だった
じつはこうした雇用の不安定な契約社員を安定雇用に切り替えようという政策が「無期転換ルール」だった。
2013年4月に施行された改正労働契約法の18条では、通算契約期間が5年超の有期雇用労働者に無期転換を申込みできる権利を与えた。
通算5年のカウントは2013年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象になる。したがって契約期間が1年の場合、更新を繰り返して6年目の更新時を迎える2018年4月1日から労働者は無期転換の申込みができ、1年後の19年4月1日から無期労働契約に移行する。仮に18年4月1日から1年間の契約期間に無期転換の申込みをしなくても、次の更新以降でも申込みができるので無期転換権が消滅することはない。
厚生労働省では今年の4月1日に無期転換ルールが適用される有期雇用労働者は約450万人と見ている。そして、捏造した助教を含む身分の不安定な研究者も本当はこの対象になるはずだった。
ところが……。
▼研究者の「無期転換」を山中所長は阻もうとしたのか
大学や研究機関の「有期契約」の教員・研究者などに関しては、無期転換請求権が発生する期間を5年超から10年超に先送り(延長)する特例措置を設けた法律が2013年12月に成立したのである。
その背景にはいったい何があったのか。
「5年超の有期雇用労働者に無期転換を申込みできる権利」の行使を阻んだのは政府や大学・研究機関だった。そして、それに一枚噛んでいたのがiPS細胞研究所の山中所長自身だったことはあまり知られていない。
改正労働契約法施行前の2月28日。当日開催された衆参議院表祝行事で山中氏はこう述べていた。
「(2013年4月1日から施行される改定)労働契約法では、有期雇用は5年までで、次の契約をする場合には無期(労働契約)としなければならないとされている。大学にとっては、10年間プロジェクトならば10年間雇用する予算がつくが、5年間雇用した後、無期で雇用しなければならないとなると5年を超えて雇用することが難しくなってしまうため、優秀な人材が集まらないのではないかと危惧している。実際、問題になるのは5年後かも知れないが、何らかの対策が必要だ」(衆参表祝行事での発言要旨)
なぜ5年超の無期転換では優秀な人材が集まらなくなるのか。少しわかりづらいので補足しよう。
大学での研究は、交付金などの公的補助金による期間限定型のプロジェクトが多い。研究者はプロジェクトが終了すると他の大学のプロジェクトで研究活動を続けるが、5年で無期雇用に転換すると、大学はその後も雇い続けなくてはならないが、予算的にそれが難しいので5年を前に雇い止めにするしかない。それでは優秀な人材の確保が難しいというのが山中氏の発言の趣旨だ。