1999年に発表されたJ・D・クランボルツによる「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」を紹介したい。この理論はキャリア論としては新しい部類に入るが、昨今の「変化」がますます加速するビジネス環境や人事コンサルタントとしてのさまざまな見聞も踏まえると納得性が高い。

【計画された偶発性理論】
・キャリアの80%は予期せぬ偶然の出来事によって支配される。
・将来の目標を明確に決めて、そこから逆算して計画的にキャリアをつくりこんでいくような方法は、現実的ではない。
・むしろ優柔不断なくらいでよく、それはオープンマインドな状態であって、予期せぬ出来事を柔軟に受け止められる。

そして、クランボルツ教授は「偶然を意図的・計画的にチャンスに変える」ために発揮すべき5つの行動指針を示している。

好奇心……絶えず新しい学習の機会を模索し続けること
持続性……失敗に屈せず、学習し続けること
楽観性……新しい機会は必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること
柔軟性……こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
冒険心……結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと

参考:J・D・クランボルツ、A・S・レヴィン(著)、花田光世ら(訳)『その幸運は偶然ではないんです!』(ダイヤモンド社)

成功したければ「銀行体質」を捨てよ!

銀行員の転職に話を戻そう。前述した銀行のシステムの中では、これらの5つの行動指針にもとづいた行動は、むしろ抑え込まれてしまうだろう。しかし、銀行員はもちろん、これからの時代のあらゆるビジネスパーソンには、この指針こそが求められるのだ。

彼らの転職が成功するか否かは、そもそもなぜ彼ら、彼女らが銀行員という職業に何を求めたのかを問い直すことからはじまる。

銀行員という職業に絶対的な安定性や保守性、他律性を求めて就いた人はまだまだ多い。そんな人が、ただ業績が悪い、将来の見通しが立たない、という後ろ向きの理由だけで転職するのであれば要注意だ。転職先にも同じものを求めるのであれば、残念ながらその転職は失敗する。

その一方で、銀行に入ってはみたが、いまの日本の銀行員という職業がどうしても合わない、合わなかったと心の底から思い、副業を含めて外を積極的に見ようとする人材、行動に移せる好奇心と冒険心のある人材であれば、どこに転職してもチャンスをつかむことができるはずだ。彼ら、彼女らの転職の成功には、銀行と銀行員という体質を捨てることが必要不可欠なのである。

新井健一(あらい・けんいち)
経営コンサルタント/アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。1972年生まれ。早稲田大学卒業後、大手重機械メーカー、アーサーアンダーセン/朝日監査法人(現KPMG/あずさ監査法人)、同ビジネススクール責任者、医療・IT系ベンチャー企業役員を経て独立。大企業向けの経営人事コンサルティングから起業支援までコンサルティング・セミナーを展開。著書に、『「もう、できちゃったの!?」と周囲も驚く!先まわり仕事術』『いらない課長、すごい課長』『いらない部下、かわいい部下』『すごい上司』など。
(撮影=宇佐見 利明 写真=iStock.com)
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