どんなことも、仮に利害が衝突するようなことでも、誰もが1つになって戦えば、強い。志を1つにすることを最重視するのも、楢原流だ。部下たちは、何度も事業部へ足を運び、一緒に考えた。他部門の説得が必要なら、自分たちが汗をかく。06年暮れに財務経理部長に就き、翌年には必要な増資を決めた。ところが、08年秋、リーマンショックが勃発する。フィルム事業への投資は、延期した。だが、「明日への希望」は、捨てない。リーダーには果断さが必要だが、粘り強さも欠かせない。

世界的に景気が上向き始めた2010年4月に経営企画室長となり、投資計画を復元する。2011年3月の増資で得た168億円のうち、100億円余りをフィルム生産の新設備に充てた。

ハイブリッド型は珍しい仕組みで、業界には「非効率だ」と冷ややかな声も出た。だが、工業用は好況期にはぐんと伸びるが、ひとたび不況色が出るとストンと落ちる。一方の包装用は、急増はなくても安定的だ。景気動向に応じて両者の生産量を調節することで、逆風への抵抗力を高める狙い。いま、両者の量は、ほぼ半々だ。

工業用フィルムでは、それまでは競争相手を追いかける立場だった。それが、この投資で、特定の分野でなら先頭を走れるまでになる。ただ、技術革新は速い。止まっていればすぐに追いつかれるから、どんどん、前へ走り続けなければならない。その道が、敦賀への投資で開けた。振り返れば、社内のベクトルが1つになった成果だと、つくづく思う。