日本の安倍首相は、トランプ大統領と良好な関係を構築することに成功した、と言われる。それにもかかわらず、日本は、国連の安全保障理事会と総会の2回の投票を通じて、エルサレム首都承認に反対する決議に賛成票を投じた。シェール革命によって中東の石油に依存する必要がなくなったアメリカと、日本の立場は違う、という分析も可能であろう。綱渡りである。

日本が優先して果たすべき役割とは

日本の河野外相は、中東和平に向けて日本が調停役となるべく努力を払おうとしている。その姿勢は評価すべきだが、残念ながら、必ずしも大きな見込みがあるようには見えない。誰がやってもそうなのだから、日本の責任ではないが、日本なら何かできると信じる理由は何もない。

目下の中東情勢には、アフガニスタンからサヘルにかけた地域の複雑で多様な諸問題が密接にからんでいる。広範な地域をにらんだアプローチが必要であり、少なくともロシア、中国、トルコ、イラン、サウジアラビア、UAE、カタールなどの動きを見ることなく、単なる「アラブの大義」の問題だと誤認することは、危険な火遊びにつながる。

日本が優先すべきなのは、中国主導の「一帯一路」と、日米主導の「インド太平洋」の戦略的せめぎあいの中で、アメリカの同盟国としての巨視的な視点と、日本自身の立場の両方を反映した、自らの役割を果たすことだ。その方向の中で、地域的な信頼醸成を促進するために側面からの支援を提供していくことが、目下の日本の実力に見合った世界平和への貢献だろう。

次回の原稿では、この「一帯一路」と「インド太平洋」の両構想を含む地政学ゲームを、もう少し詳しく見てみることとする。

篠田英朗(しのだ・ひであき)
東京外国語大学教授 1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程修了、ロンドン大学(LSE)大学院にて国際関係学Ph.D取得。専門は国際関係論、平和構築学。著書に『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』(講談社選書メチエ)、『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保』(風行社)、『ほんとうの憲法 ―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)など。
(写真=ロイター/アフロ)
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