冷戦終焉後の世界の紛争問題の中心地は、サブサハラ(サハラ砂漠以南)アフリカだというのが、1990年代以降の大きな傾向だった。2010年代に入り、世界の紛争の震源地は、中東に移行した。アフリカの紛争地帯も、中東とのかかわりの強いサヘル(サハラ砂漠南端に接する帯状の地域)という言い方で表現されることが一般的になった。

潮目となったのは、「力の空白」地域となった中東の「アラブの春」以降の混乱である。オバマ大統領は、演説では自由主義的な国際秩序の価値を語ったが、別の観点から描写すれば、アメリカの力による秩序維持を放棄した撤退主義者であった。

「普遍主義」を捨てたアメリカ外交

トランプ大統領が好まないのは、なんといってもまずはブッシュ大統領のような宣教師スタイルや、オバマ大統領のような弁護士スタイルの雄弁術だろう。これらに対しトランプ流とは、堂々と「アメリカ第一」主義を公言したうえで、敵対勢力との駆け引きや、競争相手との交渉を行うスタイルだ。対テロ戦争についても、そのような態度で対処している。

2017年8月にトランプ大統領は、新しいアフガニスタン戦略を発表した。米軍増派を行って徹底したタリバン系勢力などの駆逐を進める決意を表明すると同時に、テロリスト勢力掃討の努力が不足しているという理由で、パキスタンを非難し、インドの役割増大への期待を表明した。その後、パキスタンへの軍事支援の停止を発表した。インドは継続してアフガニスタン支援にかかわっている重要な隣国だが、トランプ大統領のようなあからさまなやり方は、地域の安定を乱す懸念から、これまではタブー視されていた手法だ。

トランプ大統領の実直なやり方は、エルサレム首都承認問題でも明らかになったと言える。トランプ政権下のアメリカは、もはや湾岸戦争直後の歴史的にも稀(まれ)な影響力を中東に誇ることができる国ではない。ただしイスラエルおよびイスラエルと急速に関係を深めたサウジアラビアやUAEとは、依然として良好な外交関係を維持している。反対に、これらの国々と敵対するイランやトルコなどとは、関係を厳しくしている。エルサレム首都承認は、アメリカが普遍主義にもとづく中立的な調停者などではないことを、アメリカ自らが認めた行為であった。