日本でワクチンが不足してしまう事情

ただ朝日社説も読売社説も、このワクチン問題に対する主張や要求が弱く感じられる。ワクチン製造の問題まで切り込んでいないからである。

たとえばワクチンはニワトリの有精卵(孵化鶏卵)の中にインフルエンザウイルスを入れて増殖させて作る。家庭の冷蔵庫にあるような無精卵ではできない。

有精卵の数には限りがあるうえ、増殖からウイルスをバラバラにして殺す不活化までかなりの時間がかかる。量産までだと、半年はかかってしまう。しかも有精卵1個で1回分の接種しかできない。

こうした問題点を解決するワクチン製造の方法が10年前から注目されている。それは細胞培養という方法で動物の腎臓などの細胞から特殊な細胞を作り出し、その細胞にインフルエンザウイルスを感染させてウイルスを増殖させるやり方だ。

この細胞培養だと、比較にならないほど効率よくワクチンが大量に製造できる。欧米ではすでにこの方法でワクチンが作られている。日本でも実用化を目指して研究・開発が行われてはいるが、一部の専門家の間に副作用を心配する声もあり、まだ実用化に踏み切れないようだ。

2009年のブタ由来の世界的大流行

インフルエンザワクチンについての解説はこのぐらいにして、最後にもうひとつ、朝日社説も読売社説も一言も書いていない重要な問題を指摘しておきたい。それは「新型インフルエンザ」の怖さである。毎冬の季節性インフルエンザへの注意も大切だが、この怖さを忘れないでほしい。

ことさら恐怖をあおるつもりはないが、9年前の2009年3月末からメキシコやアメリカでブタ由来の新型インフルエンザが流行。多くの人が免疫を持たないウイルスだったことからあっと言う間に世界中に感染拡大し、同年6月1日にはWHO(世界保健機関)が警戒レベルを最高の「フェーズ6」に引き上げたのを覚えているだろか。まさにパンデミック(世界的大流行)だった。

問題のブタ由来の新型インフルエンザのウイルスタイプはH1N1だった。かつて流行したことがあり、一部の高齢者は免疫を持っていた。毒性もかなり弱かった。それゆえ医療水準の高い日本などの先進国では深刻な被害は少なかった。

だからといって新型インフルエンザを侮ってはならないし、あのパンデミックを忘れてはならない。