多くの人は所得が増えても幸福感が高まらない

〈第三のシフト〉を推し進める舞台は整った。産業革命以降、仕事に関する古い約束事のもと、お金と消費が仕事の中核をなしてきたが、それを次のように書き換えることが可能になりつつある。

ビジネス書大賞2013と日本の人事部「HRアワード」をダブル受賞した『ワーク・シフト』(プレジデント社)。

私が働くのは、充実した経験をするため。それが私の幸せの土台だ。

仕事を通じてお金を稼ぐことの重要性を無視しているわけではない。生活の基礎的なニーズを満たすうえでは、お金が欠かせない。しかし先進国の多くの人は、所得がこれ以上増えても満足感や幸福感が高まらない。

次第に、充実した経験を味わうことが満足感や幸福感の主たる牽引役になる。カリヨン・ツリー型のキャリアを築き、キャリアのモザイクを描くことが当たり前になれば、職業生活の関係でお金をすべての中心に据えるのではなく、お金とほかのさまざまな経験のバランスを取るために、古い約束事に代わって新しい約束事を形づくる必要がある。

たとえばボランティア活動のために高給を諦める

そのためには、仕事に対する考え方を、さらには企業と働き手の間の「契約」の中身を根本から〈シフト〉させる必要がある。この〈シフト〉を妨げる要因は、どういうものなのか。幸せで、充実感を味わえて、未来に押しつぶされない職業人生を送りたい人は、なにを転換するべきなのか。

まず、自分の前にどういう選択肢があり、それぞれの選択肢を選んだ場合にどういう結果が予想され、なにを諦めることになるのかを明確に理解しなくてはならない。

〈シフト〉をおこなうとは、覚悟を決めて選択することだ。たとえば、ボランティア活動やリフレッシュをする際に長期休暇を取るのと引き換えに、高給を諦めるという選択をしたり、さまざまなリスクを承知の上でミニ起業家への道を選択したり、家族や友人と過ごす時間を確保するために柔軟な勤務形態やジョブシェアリングを選択したりする。

未来の世界では、選択肢が大きく広がる。昔は企業が社員の代わりにすべてを決めていたが、自立した働き手が自分の働き方を主体的に選ぶケースが増える。主体的な選択をおこなうためには、これまでより深く内省し、自分の選択がもたらす結果を受け入れる覚悟が必要だ。

※本稿は、リンダ・グラットン著『ワーク・シフト』(プレジデント社)を再編集したものです。

リンダ・グラットン
ロンドン・ビジネススクール教授
1955年生まれ。英タイムズ紙の選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」の1人。組織におけるイノベーションを促進するスポッツムーブメントの創始者。『Hot Spots』『Glow』『Living Strategy』など7冊の著作は、計20カ国語以上に翻訳されている。
 
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( 構成=鈴木 工 撮影=市来朋久)