――それでは「酒に強くなった」という人は、なぜ飲めるようになったのでしょうか。

1.の「弱い+弱い」の人はどうやっても無理ですが、2.の「弱い+強い」タイプでは3つの理由が考えられます。

1つ目は、ALDH2以外の、遺伝に左右されない酵素が強くなった可能性があること。アルコールの代謝には、カタラーゼとかミクロソームエタノール酸化系(MEOS)酵素群といった分解酵素があって、その酵素の働きは遺伝に左右されないので、飲んでいくうちにそちらが多少強くなったのではないか。

2つ目は、アセトアルデヒドに慣れたということ。頭痛、吐き気、眠気といった不快感が出るアセトアルデヒドには、気分を大きくしたり幸せな気持ちにしたりする作用もあります。飲んでいくうちに体が不快に慣れ、幸福感を求めて飲むようになる人もいるでしょう。

3つ目は、アセトアルデヒドの分解よりも前の段階の要因です。最初に体内に入ったアルコールはADH(アルコール脱水素酵素)によってアセトアルデヒドに分解されます。飲んだ翌日まで酒臭い人っているでしょう? そういう人は、酒に強くてもアルコールの分解が遅い人なんです。アルコールの分解が遅いと、アルコールから産生されるアセトアルデヒドの量が少なくなり、そのことで飲めてしまう人がいる可能性も考えられます。

酔い方を決めるもう一つの酵素

――アセトアルデヒドの分解だけではなく、アルコール分解の速い、遅いもあるんですね。こちらは飲むことで変化することもあるのですか。

残念ですが、こちらも遺伝によって生まれつき決まっています。アルコールをアセトアルデヒドにする段階で一番重要となるのはADH1B(アルコール脱水酵素1B)で、この酵素の働きも3タイプに分けられます。

(A)「父から遅い、母から遅い」を受け継いだタイプ(日本人の約10%)
(B)「父母のどちらかから遅い+もう片方から速い」を受け継いだタイプ(日本人の約40%)
(C)「父母両方から速い+速い」を受け継いだタイプ(日本人の約50%)

日本人の半分弱はもともと酒に弱い人たち(アセトアルデヒド分解酵素が「弱い+弱い」もしくは「弱い+強い」)なので、そもそも量をたくさん飲めないためにアルコールの分解が速い人が多いんです。またアジア系の人は遺伝的に速い代謝のADH1Bを持っている人が多い。これが欧米だと反対で、アセトアルデヒド分解酵素が「強い+強い」の人が多く、さらにアルコールの分解が遅い(A)タイプの人が約90%を占めます。

アルコールの分解が遅い(A)タイプの人は、その分血中のアセトアルデヒド濃度がゆっくり上がるため、気持ち悪さを感じにくく、酒に強いといえます。ただし、このタイプの人は、翌日まで酒が残りやすく、朝に酒の匂いが残ることがあるので、注意が必要です。