その意味では、韓国における左派論調を代表し、「対米傾斜」に懐疑的な見方を示す『ハンギョレ新聞』が、トランプのアジア歴訪を控えた日本国内の「主流」意見を伝えた記事(2017年10月31日配信、日本語電子版)の中で、中山俊宏(国際政治学者/慶應義塾大学教授)の発言を次のように紹介していたのは、誠に興味深い。

「アジア地域の国家には、中国が大国に浮上することに適応していくしかないのではないかという意見があるが、日本は中国中心は地域秩序にとって良くないと明確に言う国だ」。

中山は、中国の隆盛を前にして「自主防衛」路線もその対極にある「非武装中立」路線も現実的な選択肢になり得ず、日米同盟の堅持が代替策のない「ベスト・オプション」であると指摘している。そして、この記事は、「総ての日本人がこれに同意するわけではないが、こうした情緒が日本国民の間で共有されている」という中山の言葉を付け加えている。中山は、ハンティントンが示した日本の「対中バンドワゴン」の対応が、実際的な政策路線にはならないことを明示しているのである。

日本の針路を決める「文明」という要素

それならば、「なぜ、日本人の大勢は、中国中心の地域秩序を受け入れられないと思っているか」が問われなければならない。この問いに対する答えは、実はさほど、単純ではない。序破急の「序」にあたる本稿の次の「破」編で詳しく論ずるけれども、それは、自由主義体制と共産主義体制という政治体制の違いだけによるものではなく、日中それぞれの「文明」の差異に根ざすものであろう。「中国の隆盛と米国の退潮」の様相が色濃くなればなるほど、そうした「中国との距離」に絡む自省は大事になるであろう。

(文中、敬称略)

櫻田 淳(さくらだ・じゅん)
国際政治学者。東洋学園大学教授。1965年生まれ。北海道大学法学部卒、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。衆議院議員政策担当秘書などを経て現職。専門は国際政治学、安全保障。著書に『「常識」としての保守主義』(新潮新書)『漢書に学ぶ「正しい戦争」』(朝日新書)『「弱者救済」の幻影―福祉に構造改革を』(春秋社)など多数。
(写真=AFP/時事通信フォト)
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