安倍第二次内閣発足以降に「積極的平和主義」や「地球儀を俯瞰する外交」という概念の下で展開されてきた対外政策路線には、「自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値意識を尊重する」という論理と「『普遍的な価値』を共有するもろもろの国々と「開かれた関係」を構築するという論理とが反映されている。その二つの論理にはめ込まれた「対中バランス」の意図は明白である。

具体的な政策事例を挙げれば、日本がTPP(環太平洋経済連携協定)の枠組みを米国の離脱以後も護ろうとしたゆえんは、それが単なる自由貿易の枠組みではなく「対中バランス」の枠組みであることにある。トランプのアジア歴訪を経て日米両国の共通戦略として浮上しつつある「インド・太平洋」戦略、あるいは具体的な政策対応としての日米豪印4カ国の枠組みでの議論の始動も、「対中バランス」を進める要請に添ったものである。

日韓関係冷却の背景にも

ちなみに、この数年の対韓関係の冷却にも、歴史認識摩擦や竹島領有権に絡む領域摩擦もさることながら、中国の隆盛を前にした韓国の「対中バンドワゴン」の姿勢が露骨になっている事情が反映されている。2015年9月、北京での対日戦勝70周年記念式典に参集した朴槿恵(当時、韓国大統領)の判断、そして「日米韓軍事同盟は望ましくない」という文在寅の直近の方針は、韓国の「対中バンドワゴン」の姿勢を象徴する事例である。

これは、特に安倍内閣下で鮮明になった日本の「対中バランス」の論理とは相容れないし、アジア・太平洋地域で「対中バランス」の方針を進めてきた米国の期待にも沿わない。日本は、対米同盟を日本防衛だけではなく「対中バランス」を含めてアジア・太平洋の安定という大きな絵の中に位置付けているけれども、韓国は、対米同盟を高々、「北朝鮮に対する盾」としか観ていない。こうした意識の懸隔(けんかく)にこそ、日韓関係の疎遠をきたすゆえんがある。