いやがらせ対策を強化するツイッター
メディア報道では、これまで「両論併記」が重要だと考えられてきた。ある事件を報道する際、非難する側と非難される側、両者の意見を掲載することで中立性を担保するという方法だ。しかしこれにも多くの批判が寄せられている。例えば、いわゆるヘイトスピーチのような憎悪を煽るような方法論を選択する人々に対し、「彼らの言い分も聞いてから議論をしよう」することは、結果的にヘイトスピーチに加担することになる、という指摘だ。
海外では、ヘイトスピーチを「言論の自由」の範囲外として扱うことが一般的になりつつある。例えばTwitter(ツイッター)は、ヘイトスピーチだけでなく、リベンジポルノやテロの助長とみられる発言に対し、取り締まりを強化することを発表している。同社は2018年1月までにどのような対策を行うか、そのスケジュールまで公開している。
こうした措置をとると、問題のない発言であっても誤って「規約違反」とみなされ、一時的にアカウントがロック(凍結)される恐れもある。ツイッターがなかなか取り締まりに踏み切らなかった背景には、誤ったロックを避けたいという考えもあったのだろう。だが、不適切な発言が氾濫する現状において、ロックを優先させる姿勢に出ている(同時にアカウントロックに関して異議申し立ての機会も設置する)。
ネット上の晒し=doxing
こうした対策の背景には、ネットに残る「ログ」の問題がある。座間事件だけでなく、一度報道された事件は加害者だけでなく被害者の情報も、半永久的にネットに残ってしまう(座間事件においても被害者に関する情報が現在もネットに残ってしまっている)。いったん拡散した情報は、取り下げることができない。だからこそ、個人情報を安易に拡散してはならないのだ。すでに海外では個人情報を意図的に「晒す」という行動が問題になっている。
2017年8月、米ヴァージニア州シャーロッツビルで生じた白人至上主義者とそれに反対する人々の衝突では、ネット上で「集会の写真から白人至上主義者を特定せよ」という動きが現れた。英語のスラングでは、こうした特定の個人の氏名や住所などを暴くことを「doxing(ドクシング、晒し)」という。シャーロッツビルの一件では、女優のジェニファー・ローレンス氏がFacebookに白人至上主義者へのdoxingを促進するともとれる発言を行ったため、大きな注目を集めた。また衝突前夜に行われた白人至上主義者たちの集会写真をもとにdoxingが行われたが、そこでは無関係な大学教授が「白人至上主義者」として誤認され、抗議が殺到したために、その教授は自宅に帰ることもできなくなってしまった。
doxingは市民による権利なき「私刑=集団リンチ」という暴力行為であり、許されるものではない。しかし、白人至上主義というヘイトスピーチに反対するものとして、私刑を許容する人たちが相次いで現れた。中にはクラウドファンディングでdoxingを呼びかける、「クラウドファンディングdoxingサイト」まで登場した。私刑の応酬は対立を先鋭化させるだけだ。筆者は事件当時、この問題について右派・左派にかかわらずdoxingを否定した。