発売当初は流通(卸や販売店)から「リンゴとハチミツ入りの甘いカレーなんて売れない!」と猛反発を受けたが、こうした数々の施策が実を結び、爆発的なヒット商品となった。この商品の大ヒットで、即席カレーは「主婦に向けた商品」に変わったのだ。
「違う味を試しやすいレトルトに比べて、ルウは一度家庭に定着すると商品を変えにくい一面もあります。お子さんのいる家庭で味を変えると、不満になりやすいのです。また同じ商品でも、各家庭で独自の味が作られる特徴もあります」(同)
ちなみに、人気が定着してから現在までのCMタレントは「爽やかなお兄さんと子供たち」でほぼ統一している。最も長期間活躍したのは西城秀樹の12年。世代によっては「ヒデキ! 感激!!」のフレーズが残っている人も多いだろう。現在は、知念侑李(Hey! Say! JUMP)が起用されている。
「同じ鍋で食べる楽しさ」を訴求
圧倒的に強い「バーモントカレー」にも中長期的な課題は残る。その1つが、冒頭で紹介した個食化の進行だ。1人暮らし世帯の増加は止まらず、高齢単身世帯も進行している。鍋料理もそうだが、総じて1人暮らしになると、手の込んだ料理は作らなくなる。
「CMだけでなく、公式サイトでメニュー提案をするなど、楽しくつくる方法を訴求しています。当社の商品はシチューもそうですが、温かさや触れ合いもキーワード。ロングセラー商品だからこそ、定期的にモニタリングをしています。消費者の声が顕在化する前に自分たちで変えていく。味については、ほんの微差の調整なので時間もかかるのです」(同)
最近のCMでは、鍋をのぞき込む子供たちの笑顔や驚きも訴求している。昔のように、毎日の食卓での団らんはなくても、何かの際には家族や親戚、友人・知人が集まる。そうした時に「同じ鍋で食べる」楽しさは、昔も今も変わらないのだろう。
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。