「きしめん」や「味噌煮込みうどん」で知られる名古屋だが、ラーメンの印象は弱い。全国各地のご当地ラーメンとして、たとえば北海道の「札幌ラーメン」、東北の「喜多方ラーメン」、関東の「佐野ラーメン」や「東京ラーメン」、近畿の「和歌山ラーメン」、九州の「博多ラーメン」や「熊本ラーメン」は有名だが、「名古屋ラーメン」は聞いたことがない。
名古屋市内に本店を持つ、老舗台湾ラーメンの「味仙(みせん)」や、台湾まぜそばの「麺屋はなび」など当地で有名で東京進出を果たした店はあるが、まだ限定的な存在だ。
名古屋市に本社がある「スガキヤ」はこれらの店とは訴求が異なり、こだわりの“ラーメン通”をうならせる店ではない。だが世代を超えて多くの客が来店する「名古屋人のソウルフード」となっている。戦後まもない創業で、現在は派生ブランドを含めると愛知県内に200店もある。生まれも育ちも同県で、ここのラーメンを一度も食べないで大人になった人は少ないのだ。なぜ、ソウルフードとなったのだろうか。
名古屋人が支持する「5つの理由」
先日、筆者が出演した名古屋のテレビ局の経済情報番組で、当地が本拠地の人気ステーキ店経営者が興味深い話をしていた。「名古屋で商売に成功するには1つや2つの特徴ではダメ。4つや5つの特徴がないとむずかしい」というものだ。
これを念頭にスガキヤの特徴を分析すると、以下のとおりだ。
(1)名古屋人の好きな「オトク感」がある
(2)気軽に入れる「敷居の低い店」
(3)普段使いの「ご近所感覚」である
(4)「ボリューム」をケチらない
(5)複数のものを一緒に「欲張れる」
(1)は「なぜ、スガキヤは『1杯320円』で利益が出るのか」(http://president.jp/articles/-/21795)でも紹介したが、1杯320円の「ラーメン」(通称「赤丼」)が看板商品で、麺類はすべて500円未満と、ワンコイン(500円玉)でお釣りがくる。首都圏でいえば「立ち食いそば店」に匹敵する安さだ。
(2)は筆者も大学入学前まで当地で暮らし、現在も頻繁に取材をする土地なのでわかるが、総じて名古屋人はカッコつけた店を好まない。たとえば名古屋発祥の「コメダ珈琲店」が地元民に支持されるのは、昔ながらの喫茶店テイストで全国展開しているからだ。もしコメダがスタイリッシュな店に変貌したら反発を受けるだろう。
(3)は(2)と似ているが、スガキヤは「ふだん使い」で利用する店だ。中学生や高校生が友人と来店したり、サラリーマンが小腹を満たすために立ち寄ったりする。
また、(4)は意外に重要だ。とかく、名古屋は「ケチ」と称される土地柄だが、飲食の量は大判振る舞いをする。ここをケチると地元民にソッポを向かれる。「メニューで見た大きさをイメージして注文したら、量が少なくてガッカリした」経験を持つ人は多いと思うが、名古屋の店がこれをすると、すぐに淘汰されてしまう。スガキヤはそこも外していない。
最後の(5)は、ご当地名物のモーニングサービスをイメージしてもらえばいい。名古屋は手頃な価格で何かを「追加」するのを、店も客も楽しむ文化で、スガキヤの場合は「ラーメン+甘味」がそれだ。最も多いのはラーメンを食べた後、ソフトクリームを追加するパターンで、両方頼んでも税込み470円(ミニソフトの場合は420円)ですむ。