国税の弱体化は「安倍1強」の弊害だ
霞ヶ関のトップ官庁である財務省には、威厳があった。その財務省のもとで徴税を担当する国税庁には野武士的な財務官僚がいた。役人離れしたキャリア官僚たちが財務省から国税庁に送り込まれ、全国の国税局やその下の税務署をひとつにとめ上げてきた。
財務省キャリア、国税庁採用の国税庁キャリア、ノンキャリアの税務職員という順番の「ピラミッド構造」である。
このピラミッド構造の善しあしはさておき、国税はときには検察と組んで脱税事件にも力を尽くした。元自民党副総裁の金丸信氏の大型脱税事件では、みごとに検察の汚名をすすいだ。ロッキード事件では政財界フィクサーの児玉誉士夫氏に対する査察(強制調査)がなければ、検察は田中角栄という首相の犯罪を立件できなかっただろう。
国税には政治家を脱税の罪に問える調査能力があった。永田町ににらみが利いた。財務省は自らの威厳ともに国税のこのにらみをうまく使った。
しかし、いまは国税の力が弱っている。安倍政権の「1強」のもと、官邸が大きな権力を持ち、安倍政権を忖度した財務官僚に出世の道を与え、国税のトップに添えるような人事がまかり通る。
これこそ安倍1強の大きな弊害だ。ロッキード事件や金丸脱税事件を経験した世代のジャーナリストには信じられない事態である。