株主は、複数の企業にリスクを分散して投資できます。そのため、ある企業の株価が下がったとしても、ポートフォリオ全体が増えればいいので、個々の会社の個別のリスクはさほど気になりません。それに対して従業員は、同時に複数の会社で働くことはできませんから、今勤めている会社がつぶれては困ります。それでも、もし、雇用の流動性が高く、その人の能力に応じた再就職先がすぐに見つかるのであれば、問題にはならないでしょう。

なぜ日本では転職すると不利に働くのか

しかし、日本の場合は雇用の流動性が低く、転職すると不利に働く傾向があります。そのため、株価の最大化を図るよりも、従業員の生涯所得の価値の最大化を図ろうとする傾向が強まるわけです。そのため、日本企業は収益性が低い半面、倒産するリスクも低く、キャッシュを保有する傾向があるのではないかと思います。

韓国銀行の08年の報告書によれば、世界の創業200年以上の企業のうち、半数以上を日本企業が占めています。このように寿命の長い企業が多いのも、リスク回避傾向が強いためではないでしょうか。

では、企業の投資をもっと促すには、どうすればよいでしょうか。私は、労働市場の思い切った規制緩和が有効だと考えます。日本では、企業が使用者側の事情で人員削減をするには、整理解雇の4要件(人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行、被解雇者選定の合理性、解雇手続きの妥当性)が充たされていなければなりません。

この規制を緩和することで、雇用の流動性が高まり、転職市場がもっと整備されれば、従業員にとってのセーフティーネットになります。転職をしやすくなれば、企業は従業員が失業する心配をしなくてよくなり、投資リスクをもっと取りやすくなるはずです。

(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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