観客の「見たいガッキー」に応えた作品
『リーガル・ハイ』は2012年に放送された第1シーズンの好評を受け、シーズン2と2本のスペシャル版が制作されました。2013年に放映されたシーズン2の平均視聴率は18.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)。特に第1回は21.2%の高視聴率でした。
『逃げ恥』も回を追うごとに視聴率を上げ、最終回は20.8%。いずれも掛け値なしの大ヒットドラマです。そこで準主役および主役を演じたガッキーのお茶目なコメディエンヌぶり、不器用だけど頑張り屋のキャラクターには、多くの視聴者が魅了されました。
要は『ミックス。』のガッキーとは、近年の視聴者が一番「見たい」と思っている“『リーガルハイ』と『逃げ恥』のガッキー”であり、そのことが予告編や宣伝で余すところなく伝えられていました。これは、個人経営の食堂が店の前に張り紙を出して、「吉野家の牛丼の味に似ています」「ポテトはマクドナルドの食感にそっくり」とうたうのと同じ。通りすがりの一見客に対する安心感の保証、これこそ本作が公開1週目に好調を喫した最大の理由です。
この安心感は、観客が本編を観てはじめて確認できたところで意味はなく、観る前に与えられるものでなくてはなりません。個人経営の食堂にたとえるなら、客は店構えや店頭に掲げたメニューを一瞥した時点で「きっとおいしいに違いない」と感じなければ、のれんをくぐってはくれないということです。
いつもの味が必ず食べられる安心感
人気シリーズの続編や人気マンガ原作の映像化の場合、食べる前からある程度「味」が想像できるので、個人経営の食堂よりは、もう少し有利です。しかし『ミックス。』のようなオリジナル作品は、観光地でもない田舎町の個人経営の食堂が、通りすがりの旅行者に食事させるのと同じくらい、集客が簡単ではありません。
そんな時に効果的な宣伝とは、つらつらと難しい形容詞を重ねて作品の良さをアピールすることではありません。「『◯◯(ヒットした作品名)』っぽい」と言い切ってしまうことです。『ミックス。』はそれを予告編で見事に達成しました。「『リーガル・ハイ』と『逃げ恥』のガッキーっぽいガッキーが見られますよ」と言外にメッセージしていたからです。
映画作品をファストフード店やファミレスにたとえるのは失礼だという声もあるでしょう。では、「行きつけのバー」や「懇意にしている飲み屋」ならどうでしょうか。いつも行く店、変わりばえのしないメニュー、安心の味。そこに行けば、いつもの味が必ず食べられる。そんな「誠実な契約履行」を求めて、人は同じ店に通うのではないでしょうか。