もちろん「予想外の内容」が功を奏することもあるでしょう。予告編で観客を意図的に印象操作して作品の間口を広げ、観客が予想しなかった形の満足を与えて結果オーライとする場合です。が、これは特殊ケース。観客としてはわりとリスキーな銘柄です。
それは「誠実な契約履行」と呼ばれる
観客の身になってみれば、観た後にどういう感情に浸れるかがわからないような大穴馬券に大金を張るのは、得策ではありません。配当金がわずかであっても、「損しない馬券」に張るのが、お金を無駄にしない頭のいいやり方です。その意味で、観客は1800円を文字通り「賭け」ているのです。
別のたとえをしましょう。特に観光地でもない街にはじめて訪れた人は、個人経営の食堂よりも、ファストフード店やファミレスといったチェーン店に足を運びがちです。この理屈はわかりますよね。
いつも食べているチェーン店ならば、どんな味、どの程度の満足度が食後に訪れるかを、食べる前から正確に予想できますし、なんなら摂取カロリーまで把握できます。多くの観客に選ばれる「観る前から展開や結末の想像がつく映画」とは、「食べる前から味の予想が立つ料理を出す店」と同じ。それは「予想通りでつまらない」のではなく、「誠実な契約履行」と呼ばれます。
監督と脚本は『リーガル・ハイ』のコンビ
予告編でストーリーの大半を開示するのは多くの映画宣伝で行われている手法ですが、『ミックス。』はそれに加え、主演のガッキーこと新垣結衣を最大限活用することで、観客にこれから口に入る料理の「味」を正確に予想させました。
『ミックス。』の予告編からは次のようなことがわかります。ガッキーが演じるのは不器用で不運な非モテの女性であること。ガッキーのコメディエンヌ演技が全開であること。ガッキーがデート服からジャージまでコスプレ並みに衣装を着替えること。そして彼女の努力する姿が観客の涙を誘うらしいこと。
実は、以上はすべて彼女の近年の当たり役である『リーガル・ハイ』(2012、2013、2014年)の黛真知子、および『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)の森山みくりの役どころと、完全に一致します(そもそも、本作の監督・石川淳一と脚本・古沢良太は『リーガル・ハイ』のコンビです)。2本とも、大ヒットの部類に入るTVドラマシリーズです。