チェスや将棋は敵の「大将」を取るゲームだが、囲碁は「陣取り」ゲーム。駒の指し方に制約をもつ将棋に比べ、碁石はどこにでも打てる。戦略の自由度が極めて高いのが囲碁の特徴だろう。結果的に江尻さんはいわき市を振り出しに、全国各地へ「店舗」という碁石を打ち、ついには囲碁発祥の地といわれる中国にも進出することになった。
江尻さんにとって碁盤に向かっている時間はどんな意味をもつのだろう。
「職場が近く、自宅にいてもなかなか仕事から離れられません。でも、囲碁を打っているときだけは、仕事のことを考えずに済む。リフレッシュできる貴重な時間ですね」
現在、決まった対局相手はおらず、もっぱらテレビの囲碁講座を見たり、参考書を片手に一人で碁盤に向かったりして、「自分だったらこう打つ」とシミュレーション(池谷's EYE【A】)をするのだという。
「対局すると半日はかかりますからね。本当は人と打ちたいのですが、のめり込む性格なので、いまは意識的に碁盤を遠ざけています。仕事を最優先にすると、そうせざるをえませんね。じっくりと取り組めるのは引退してからでしょう」
碁石を握るのは多くても週1~2回、2時間前後に抑えているそうだ。少し残念そうな表情を浮かべたが、案外腹八分目(池谷's EYE【B】)のほうが末永くいい付き合いができるかもしれない。
池谷'sEYE
【A】脳をだますのにシミュレーションは効果的。囲碁番組でも「自分だったらこうする」と考えながら見ると、より早く上達します。
【B】大好きな趣味も「やりすぎる」と尻つぼみになりがち。「少し抑える」と次回が待ち遠しく、達成による快感を得やすくなる。趣味を脳の「ごほうび」とするには全力でやりきらないほうがよいかもしれません。
(坂本政十賜、市来朋久=撮影)