閉鎖的な名古屋企業の“他流試合”
コメダのような名古屋企業は、ビジネス現場では「閉鎖的」ともいわれる。筆者は半分当たっていると思うが、あるきっかけで外に目を開き、“他流試合”を行う企業も目立つ。コメダはこちらのタイプだ。
たとえば創業者から投資ファンドに経営権が移ったのが2008年。以後、カフェの店舗拡大に一段と拍車がかかった。その投資ファンドは今年株式を譲渡して、同社の経営から手を引いたが、現在もコメダ珈琲店は店舗拡大に意欲的で、シロノワールの派生商品や期間限定の新商品を投入する例も目立つ。「変わらずに、いつも同じ商品を提供し続けるのがコメダのやり方だ」といった反対意見もあったが、さまざまな改革を進めている。
今年は「ロッテ パイの実〈コメダ珈琲店監修シロノワール〉」(ロッテ)や「コメダ珈琲店キャンデー」(サクマ製菓)など他社とコラボレーションした商品も発売した。デパ地下や商業施設に出店したコッペパン店も、コメダにとっては他流試合だ。
「消費者心理」の視点で考えると、コメダとコッペパンの相性はいいと思う。世代によって意識は異なるが、コッペパンには学校給食で食べた思い出を持つ人も多く、「どこか懐かしい」はコメダ珈琲店のブランドコンセプトに近い。
また、コメダ珈琲店の隠れた合言葉は「注文後のお客さんを待たせない」「店でひと手間かける」だ。食パンは工場で切って配達するのではなく、店で切って提供している。風味を損なわないことだけでなく、「ひと手間」がコメダらしさの源泉になっている。その場で具材を入れてすぐに提供できるコッペパンはコメダらしい商品といえる。
次なるコッペパン店の開業は未定だが「できれば広げていきたい」(清水氏)と意欲を示す。小売り(コンビニ)が、カフェの主力商品であるコーヒーを積極拡大する時代。逆にカフェが、小売りの得意な食品を販売する事例が増えるかもしれない。
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント。1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)がある。