目の前にある食べ物や飲み物は、はたして体にいいのか、悪いのか。ボストン在住の医師・大西睦子先生がハーバード大学での研究や欧米の最新論文などの根拠に基づき“食の神話”を大検証します。今回は「牛乳」。健康のために飲用が推奨されている一方で、「牛乳を飲み過ぎると、がんになる」という説も出てきています。私たちはどちらを信じればいいのでしょうか――。
米農務省は「1日3杯」を推奨
人間は紀元前9000~2000年頃からヤギや羊の乳を飲み始め、紀元前3000年頃から牛乳を飲むようになりました。カルシウム、ビタミン、脂質、タンパク質などを含む栄養価の高い食品として利用してきたわけです。
しかし最近、とくに牛乳の消費量が多い米国では、「牛乳が体にいいか、悪いか」が盛んに議論されています。たとえば、米農務省は9歳以上の男女に低脂肪牛乳を1日3杯(2~3歳は2杯、4~8歳は2杯半)飲むよう推奨しています。
これに対し、ハーバード大学のデビッド・ルートヴィヒ教授は「この推奨を支持する強い科学的な根拠はない。イワシ、ケール、豆などカルシウムの豊富な食材を取り入れている大人は、牛乳から受ける恩恵は少ない」と述べているのです。
また、がんとの関係も大いに注目されています。ある研究では乳製品に含まれるカルシウムの摂取が大腸がんを防ぐとしていますが、別の研究では乳製品の摂取量と前立腺がんや卵巣がんの発症リスクに関係がある可能性を示唆しています。乳がんも、報告によって相反する内容が示されているのです。