難題を克服してこそ付加価値が生まれる

だが、小西さんはたった一度の提案であきらめるわけにはいかなかった。

「プレモルを最高の状態で提供することは、ご来店のお客様によろこばれ、店舗にも大きなメリットがある」と考えていたからだ。その後も調査を実施しては、そのデータを携えて店長会議に出席し、グラスの手洗いを推奨した。粘り強い提案によって、やがて店長たちのマインドにも変化が起こる。

導入に意欲を見せたのは、調査の評点が伸び悩んだ都心店の店長。この店は直営店の中ではトップクラスの繁盛店だから、現場スタッフは忙しくて手洗いはとても導入できないと誰もが考えていたのだ。そんな店舗がグラスの手洗いに乗り出した影響は大きかった。

「あの忙しい店でグラスを手洗いできるなら、他の店舗もやれるはずだという雰囲気になってきたんです」

さらに、思いがけない発見もあった。

「内山社長が、『飲用時品質の評点が高い店舗は、コンディションがいい店舗だな』とおっしゃったのです。つまり、経営状態のバロメーターになる。『これ、面白いね』と言っていただき、調査を継続させてもらえることになりました」

調査が定例化することで、MUGENの直営店にはさらなる変化が起きた。

「まず、店長さんたちが飲用時品質の大切さを明確に意識してくれるようになりました。その結果、グラスの手洗いを徹底している店舗では、ザ・プレミアム・モルツ樽生の提供数が伸びていった。取り組みがスタートして1年半たちますが、この間に創業店舗である本店のビールの売り上げは前年の約1割増です。おいしいビールを出すとお代わりが増えるので、売り上げも伸びることが証明されたかたちです」

大手4社のビールブランドで唯一上昇基調にある「ザ・プレミアム・モルツ」。その舞台裏には、ビール市場が縮小しても勝ち続けるためのヒントがある。