今作『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』をアニメとして生み出すまでも、いま話したプロセスが当てはまります。
今回、川村が企画・プロデュースしたアニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』。その原作は、岩井俊二監督によるテレビドラマとして1993年に放送された。作品中では、「もしも、あのときに戻れるなら……」という誰しもが抱えるであろう願いを実現し、人生の分岐点に戻ることができる。
クラスメートの少女に想いを寄せる少年が、彼女との駆け落ちを成功させるために、夏の一日を繰り返す。二度と戻れない青春時代の甘酸っぱさと儚さに「もしもの世界」というファンタジーが掛け合わさり、熱狂的なファンにいまもなお支持され続ける作品だ。
僕は原作のドラマが大好きでした。少年少女の瑞々しさに「if もしも」という仕掛けが加わった、強烈な力を持った作品だと思います。24年前、最初にテレビで観たときから「いつかこの作品の続きを描いてみたい」とずっと思っていました。
いままでも多くの人がリメークしたいと言っていた作品でしたが、原作に閉じ込められた少年少女の瑞々しさ、特にヒロイン・なずなの美しさは、どうやっても再現できないと言われていました。でもアニメであれば違う表現をもって、その壁を乗り超えることができる。
「if もしも」という設定にしても撮影条件に制限されずに、自在に操ることができる。さらに「ラブストーリー」としてのエンターテインメント性と「もしもの世界」を描くグラフィックアートを両立する表現でやりたい――。そう想いを巡らしていたときに、『魔法少女まどか☆マギカ』というエンタメでありながらアートともいえる凄まじいテレビアニメを手掛けた、新房昭之監督とお会いする機会があり、ずっとやり残していた宿題のようにこの作品の存在を思い出し、企画として提案したら、面白がってくれたんです。
それで、原作者の岩井俊二監督と、ドラマ「モテキ」の第2話でカット割りを完全コピーするほどこの原作の大ファンである大根仁監督にお声掛けし、制作チームを結成。僕が尊敬する映画監督3人を揃えて、長編アニメをつくったら面白そうというのがすべてのはじまりでした。
同時に、原作の持つ力がいまこそハマる時代になってきたという感覚もありました。なぜなら、僕たちはスマホの中で写真を撮ったり消したりと、無限に「if もしも」を繰り返すことができるのに、実人生は不可逆。スマホと現実がものすごく乖離している現状に対して、面白さを感じていました。もしも、その感覚をみんなが持っているとすれば、実際にはありえない実人生における「if もしも」を叶えたこの作品は、潜在的に多くの人の心を揺さぶるものになるのではと考えたのです。