日常の違和感を逃さずロジックに置き換える

アニメ化に際し、冒頭3分の1以降はすべてオリジナルストーリーを製作し、展開。その中に、不思議な光を放つ「玉」を投げれば、「もしも」の世界をやり直すことができるという新たな設定を追加。これは、原作の舞台である千葉県・飯岡町(現・旭市飯岡地区)の現状に照らし合わせたものだ。

時を経て飯岡の何が変わったかというと、東日本大震災で被災していることです。津波に見舞われ、原作で主人公の家として使われた「しまだ釣具店」もなくなったし、港の形も変わってしまった。

だからこそ「if もしも」ということが起こる意味を、もう一度自分たち自身に問い直す必要がありました。

そうして僕が飯岡に降り立って感じたのが、あそこの海にはいろいろな人たちの想い、「if もしも」が沈んでいるのではないかということ。「もしも、地震が起こらなければ」「もしも、津波が来なければ」……そういった海に沈んだ想いが玉になって現世に流れ着く。その玉を拾った少年少女たちに「もしも」の世界を見せる。実はそれこそが、最初に新房さん、岩井さん、大根さんと話し合って決めた、今作の根底にあるアイデアです。

映画をつくるときも小説を描くときも、最初は、日常生活の中で感じた「違和感」からはじめます。その後に「自分がなぜそう感じたのか?」という根拠を見つけるために、取材し、ファクトを一つひとつ拾い集めていきます。

自分の思いつきを、ロジックに置き換えていく作業を繰り返す。感覚で捉えたピントがボケた映像のような“時代の気分”が、そうすることでクリアに浮かび上がってくる気がしています。

川村元気
映画プロデューサー、小説家。1979年、横浜市生まれ。2005年、『電車男』を企画。以来、『告白』『悪人』『モテキ』など続々とヒット作を手掛ける。『君の名は。』では興行収入250億円、邦画の歴代興行収入ランキング2位を記録。作家としても、『世界から猫が消えたなら』『四月になれば彼女は』など著書多数。
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
2017年8月18日(金)全国東宝系ロードショー

●広瀬すず/菅田将暉/宮野真守/ 松たか子
原作:岩井俊二、脚本:大根 仁、総監督:新房昭之、監督:武内宣之、キャラクターデザイン:渡辺明夫、音楽:神前 暁、主題歌:「打上花火」DAOKO×米津玄師(TOY'S FACTORY)、アニメーション制作:シャフト、配給:東宝、(C)2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会
(構成=霜田明寛 撮影=小野田陽一)
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