新潟県知事に告ぐ、風評より科学だ!
ダム建設がいかに困難な仕事であるかは、映画「黒部の太陽」などでよく知られているが、奥只見ダムの工事も厳しいものだった。携わった作業員は延べ約600万人、雪崩や凍死で工事中に117人が亡くなっている。そして、総工費約390億円の建設費が角栄の地元の業者を潤した。普通の政治家なら、巨大ダム建設で電力需要が満たされ、かつ、地元の建設業者にも利益があったことで満足したのだろうが、角栄はそれで終わらない。ダム建設が完了すると資材運搬のためにつくった道路(奥只見シルバーライン)を新潟県道に転換し、地元業者に維持管理を担当させることで、雪深い地域の住民のために現金収入を確保したのである。こうした「利益誘導」が地元に多くの角栄信者を生んだ。
やがて、発電の主力は水力から火力へと移り、原子力が登場する。角栄の首相就任の翌年、73年に石油ショックが発生。火力発電だけには頼れなくなった状況で、エネルギー確保を重視する角栄は原発推進に舵を切る。
原発建設の最大の難関は、今も昔も用地の取得であることは変わらないが、ここで角栄がつくった法律が「電源開発促進税法」「電源開発促進対策特別会計法」「発電用施設周辺地域整備法」の3つの法律で、まとめて「電源三法」と呼ばれている。電力会社が販売電力量に応じて、電源開発促進税を国に納め、それを国の特別会計の予算に組み込み、発電所の周辺の自治体に「電源立地促進対策交付金」の財源とする仕組みを定めたものだ。
角栄が考案した「道路特定財源」は車を使う人が道路整備や維持管理費を負担するための枠組みであるのと同様に、「電源三法」は電気を使う人が発電所の用地取得や自治体への迷惑料を負担する仕組みだといえる。高額な交付金があるからこそ、危険を理解しながら、原発の立地として手を挙げる自治体を確保することができた。柏崎刈羽原発の場合は、用地取得の際に、角栄の関連企業が暗躍して土地売買の利ザヤを稼いだことで、法律自体の評価が下がっていることは残念である。
角栄が愛した新潟県の米山隆一知事は、過去に「原則すべての原発を、再稼働すべきだ」といっていたのに、「命と暮らしが守れない現状で原発再稼働を認めることはできない」と発言を翻してしまった。選挙に勝つためにはしょうがないということなのであろうが、科学が風評に負け、そしてそれを国民が喝采するような国に、日本はなってほしくない。