国民に真摯に向き合う姿勢からほど遠い

さらに「佐川氏はどう答えてきたか」と前置きしながら「森友との交渉記録については『売買契約締結で事案は終了しているので破棄した』などと繰り返し、職員への調査を求められても『いちいち指摘を職員に確認することはしていない』と突っぱねた。国会議員とその背後にいる国民に真摯(しんし)に向き合う姿勢からほど遠かった」と指摘する。

説得力のある書き方である。ここまで書かれると、安倍政権側は何も言えなくなってしまうのではないだろうか。

しかも森友学園問題では、同学園が大阪府や国から補助金を不正に受け取った詐欺などの疑いがあるとして大阪地検特捜部がすでに強制捜査に乗り出し刑事事件化している。この秋には国有地の格安払い下げの問題にも捜査のメスが入るはずである。

それゆえ安倍政権にとって森友学園問題は命取りになりかねない大きな問題なのである。

「とにかく官邸の意向に沿わねば」の空気

朝日社説はその後半で「(国民から税金を徴収する絶大な権力を持つ)組織のトップに、国民への説明を拒絶し続けた人物をすえる。理解が得られるとは思えない。麻生、菅両氏、そして安倍首相はどう考えているのか」と力説し、「佐川氏のかたくなな態度の背景に政権の意向や指示があったとの見方は多い。今回の人事についても『森友問題で政権を守った論功行賞』と見る向きもある」と推測し、「『とにかく官邸の意向に沿わねば』との空気が官僚の間でさらに強まることが心配だ」と主張する。

朝日が好む主張ではあるが、新聞社の社説を10年以上にわたって書いてきたこの沙鴎一歩も「なるほど、その通り」とうなずいてしまう。

そして最後の「調べない。説明しない。押し切る。政権はそうした体質を改めるべきだ。疑問が依然として残ったままの森友学園問題への対応は、試金石のひとつになる」とのだめ押しもそれなりに納得できる。

全国紙では朝日社説だけ

次に国税庁の長官人事の問題について他の新聞社の社説はどう書いているかを見てみる。

ただ残念なことにこの問題を全国紙で社説に取り上げているのは、7月14日時点で沙鴎一歩が調べた限りでは朝日だけである。

地方紙では7月8日付の愛媛新聞が「疑惑隠しへの露骨な『論功行賞』」との見出しを掲げ、こう主張している。

「国民にとっては不誠実極まりない国会答弁でも、政府にとっては『非常に頼もしい』と映ったのだろう。疑惑隠しへの露骨な『論功行賞』だ。しかも国民から税金を徴収する税務署を束ねる組織のトップ。国民の財産である国有地の売却で公正さに疑問を抱かせた理財局の責任当事者が、次に就くべきポストとは到底思えない」

朝日社説と同じ主張ではあるが、朝日以上に「次に就くべきポストとは到底思えない」と書くなど安倍政権を厳しく批判している。