佐渡島に国道を通した豪腕

あるとき角栄の選挙区でもあった佐渡島の住民が島内の道路を国道にしてほしいと目白の私邸を訪ねて陳情したことがある。地元の自治体が整備費を負担する市町村道や県道では、十分な予算が確保できず、道路の拡張が難しいためだ。国の予算がつく国道に昇格すれば、住民の負担なしに島の発展が見込めるのだ。島の人々も最初は道路を担当する地方整備局に国道昇格を申請した。ところが、昇格には「都道府県庁所在地など特に重要な都市を連絡する道路」という条件を満たさねばならず、大都市のない佐渡島の道路が国道になることは100%ありえないと却下された。

しかし、角栄は常識外の発想の持ち主である。地図を持ってこさせて、海の上に線を引き、新潟市から佐渡島を通り上越市に達するコースをつくりこれを国道に昇格させた。国道のコースとして決まったあとで、ルート上に海には巨大な橋をかければいいとするものだった。その佐渡島と本土を結ぶ「巨大な橋」は、現在でも誕生していないが、「計画」さえあれば国道に昇格できるというコペルニクス的発想で、佐渡島に国道をつくってしまったのだ。

海の上でも国道の予定ルートとするというアイデアはその後多くの離島の道路整備を進めた。日本地図をよく見れば、北海道から沖縄まで、海上にも国道計画があることがわかるだろう。国道384号は、長崎県佐世保市から五島列島までつながっているし、国道390号は沖縄本島から宮古島を通って石垣島までのルートだ。佐渡島が角栄の選挙区でなければ、離島の生活は不便なままだっただろう。

日本の官僚は優秀だが法律の範囲でしか仕事をすることができない。それでは困る人が必ず出てくる。法律を新たにつくったり、変えたり、廃止したりという判断をするのが政治家の仕事だ。田中角栄という人はそれが天才的にうまかった。100年に1人の才能だと思う。

制度を知り尽くすのが都議会のドン・内田茂氏であれば、世の中の流れをうまく掴むのがリーダーである。田中角栄はその2つの要素を兼ね備えていたのだ。

(写真=時事通信フォト)
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