安倍晋三首相は5月3日、日本会議が主導する集会にビデオメッセージを寄せ、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と明言した。唐突という印象もあったが、実際は練りに練った用意周到の作戦と見るべきか。安倍首相の奇襲作戦は成功するか。

改憲メッセージは用意周到の作戦

安倍晋三首相の悲願は「在任中の憲法改正実現」である。だが、政権担当4年4カ月超の今年4月まで、自身の改憲案を聞かれても「国会の議論に委ねる」と述べ、改憲の時期についても発言を避けてきた。ところが、5月3日、従来の姿勢を大転換し、進んで改憲を求めるメッセージを発した。改憲案では「第9条に第3項を追加して自衛隊を明記」「教育無償化を」と唱え、「新しい憲法の施行を2020年に」と改憲時期にも言及したのだ。

筋金入りの改憲論者なのに、目指す改憲案や改憲時期について、なぜ口を閉ざしてきたのか。改憲実現には与野党の賛成派を総結集する必要があり、首相が持論を唱えて議論をリードするのは総結集の阻害要因となってむしろ逆効果という判断もあったに違いない。

それ以上に大きいのは憲法の壁である。現憲法では、改憲案の発議は国会の専権事項で、首相は改憲では何の権限も権能もない。改憲は首相として憲法上、挑戦不可のテーマだから、首相と自民党総裁の2つの立場を使い分け、党総裁として改憲メッセージを発する形を取ったのだ。唐突という印象もあったが、憲法記念日に自分の考えを、といった単純な発想ではなく、実際は練りに練った用意周到の作戦実行と見るべきだろう。

4年にわたって前人未到の「1強」を維持しているのに、改憲はいまだ暗中模索という焦りがあり、5月3日の新アクションで一点突破の「一石四鳥」を企図したと見る。「第一鳥」は国会発議に必要な衆参での総議員の3分の2の結集、「第二鳥」は自民党総裁としての改憲主導のアピール、「第三鳥」は改憲挑戦期限の明確化、「第四鳥」は発議後の国民投票を想定した民意・世論対策である。