新卒一括採用の利点として、内部労働市場と長期雇用が前提の仕組みであるため、組織としての一体感や、組織への忠誠心を高める効果があります。また、人材の離職率が低いほうがコストをセーブできるため、人材に投資するインセンティブも高まります。

もう1つ見逃せないのが、企業の会計処理が楽になることです。採用も異動も4月に集中するので、固定費として考えることができます。また、日本企業の多くは3月末が決算期のため、人材計画を立てるうえでも合理的です。

しかし、新卒一括採用には大きな弊害があります。それは、企業が優秀な人材を獲得するチャンスを逃してしまうことです。4月入社は3月に卒業する国内の大学生を想定しています。海外の大学では6月などほかの時期に卒業することが多く、その場合は入社まで半年以上も待たなければなりません。そのため、海外留学生や、外国から来た学生を採用する機会を失う可能性があるのです。実際、こうした学生は、通年採用を行っている外資系企業に入社するケースが多く見られます。

企業にとっては、いかに優秀な人材を採用するかが最優先課題のはずです。しかし、日本の大手企業の多くは、国内の新卒にしか目を向けていません。海外からも優秀な人材を採用しようとすると、今の仕組みだけでは圧倒的に不利です。また、ダイバーシティの視点に立てば、新卒採用ばかりに重きを置くべきではありません。多様な人材を獲得するためには、採用の入り口をもっと増やす必要があります。

もう1つは、内部労働市場の問題ともいえますが、採用後、企業と労働者の間にミスマッチが生じた場合に、日本では外部労働市場が成熟していないため、軌道修正がしにくいことです。ミスマッチが生じても、企業はその人材を引き留めようとする傾向があります。マクロの視点で人的資本を活かすには、雇用が流動しやすい外部労働市場の発達が必要になります。

海外からは「異様な制度」に見える

海外から見ると、日本の新卒一括採用は異質な制度です。海外に留学する学生や、海外の大学からやってくる外国人も増えている中で、4月に一括採用する日本の制度が時代遅れであることは確かです。しかし、それでもこの制度が残っているのは、そのほうが日本企業にとって合理的だからです。

「組織の惰性(Organizational Inertia)」という言葉があります。組織には、そのままの状態を継続することが最も楽なのです。組織が軌道修正をするのは容易なことではありません。例えば、一部の企業では4月入社と9月入社を始めていますが、そうすると、今まで1度で済んだ研修を2度やらなくてはならなくなり、そのコストは大きくなります。制度を変えないほうが(短期的には)コストが低いため、組織にとっては合理性が高いのです。