アクセラ・ハイブリッドの試乗会で起きた“事件”

こうして2013年にアクセラ・ハイブリッドができたわけだが、事件はトヨタのエンジニアを迎えて行ったその完成確認試乗会のテストコースで起こった。試乗を終えたトヨタのエンジニアはテストコースの隅に集まって緊急会議を始めた。「どうしよう? ウチのクルマより良い。これ、来週の役員試乗会で絶対バレるぞ……」。トヨタにしてみれば、ハイブリッドでは世界トップのつもりだった。そのプライドが目の前で崩壊した。しかも相手は歯牙にもかけていなかったマツダである。

「マツダ アクセラ」ハイブリッド

トヨタのエンジニアが凄いのは、この敗北を自らトップに上げたことだ。「ウチのシステムを使ったマツダのハイブリッドが、おかしなことになっています」。そうして豊田章男社長自らが、広島へ赴いて試乗を行い、その違いを確認した。

恐るべきことにこの大騒動に至ったのは、ブレーキ回りで使うバネ一本の作り直しだった。トヨタにしてみれば疑問だらけだ。なぜそんなことができるのか、何がそんなにクルマの乗り味を変えるのか? それを突き詰めて行くと単純にクルマのセッティングのレベルの話ではなく、マツダの言う「モノ造り革新」がその根底にあることがわかった。豊田章男社長は名古屋に戻るとすぐにマツダとの提携を進めるべく指示を出し、2年後の2015年5月にトヨタはマツダとの技術提携を発表した。

2016年の決算発表会でトヨタの豊田章男社長は、提携企業との関係の説明の中で「少ない開発リソースで製品開発を行って行く手法を学ばせていただいている」と、暗に提携相手でもあるマツダをマークしていることを示す発言を行っている。社交辞令が含まれないとは言わないが、例示がマツダのモノ造り革新の中核である「コモンアーキテクチャー」(汎用開発)である点は、少なくとも行き当たりばったりの発言には聞こえない。コモンアーキテクチャーとは基礎開発を徹底して煮詰め、従来を凌駕する性能に仕上げながら、その設計をあらゆるクルマに適応していくことで、高性能低価格、かつ高信頼性を押し進めていく設計手法だ。

トヨタが変われば世界の自動車が変わる可能性が高い。とすれば、まずはトヨタが見ているその原点であるマツダが何をやってきたのかについて分析したいと筆者は考えた。今回、マツダに取材を申し込み、研究開発・コスト革新担当の藤原清志常務、パワートレイン開発のトップ人見光夫常務、デザインのトップ前田育男常務の3人の話を聞く機会を得た。いずれもマツダの中枢を担うキーマンである。