四代目プリウス、C-HR……近頃、トヨタのクルマが良くなってきている。豊田章男社長は「もっといいクルマづくり」という言葉を連呼しているが、その手本としているのは、実は、マツダのモノ造りだ。転機となったのは2013年の「アクセラ・ハイブリッド」。トヨタのエンジニアを迎えて行った試乗会で起きた、ある“事件”とは……。
トヨタ自動車社長、豊田章男氏

“世界のトヨタ”がショックを受けた、マツダの手法

トヨタ自動車は世界に燦然と輝くエクセレントカンパニーだ。しかし、そのエクセレントカンパニーぶりに相応しいほど製品が素晴らしかったかと言えば、残念ながらそうではなかったと言わざるを得ない。

2008年のリーマンショックで大打撃を受けたトヨタは、改めてトヨタをリビルドする改革を始めた。企業体質を強靱化し、いかなる経済ショックにも負けないトヨタを実現すべく、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ http://www.toyota.co.jp/jpn/tech/tnga/)を提唱したのだ。そして製品としての成果はすでに、2015年以降に登場したTNGA世代のクルマ(四代目プリウス、C-HRなど)に現れ始めている。

そのTNGAは、どうもマツダのSKYACTIV(スカイアクティブ)を強く意識しているように思える。マツダとの提携発表以降、トヨタがリリースしたニューモデルの説明に出て来るいくつものキーワードがマツダのそれと非常に近い。

大きなターニングポイントは、マツダ・アクセラ・ハイブリッドの存在だ。2010年代に突入しようかという頃、日本の自動車市場は「売れるクルマは全てハイブリッド」あるいは「ハイブリッドじゃないクルマを今さら買う意味があるのか?」という空気に支配されていた。マツダの開発陣は「内燃機関を極めることが優先」という信念を持っていたが、一方でハイブリッドを開発するだけの人も金もなかったのは事実だ。切迫した営業サイドから「ハイブリッドが無いと死んでしまう」という悲痛な声が上がったことで、マツダはハイブリッドモデルをラインナップに加えなくてはならなくなった。

そうは言っても、人も金も足りないし、販売規模を考えれば開発費の回収もおぼつかない。しかもハイブリッド回りの特許はトヨタがガチガチに押さえており、開発そのものが難しい。「だったら……」ということで、マツダはトヨタに頭を下げて、ハイブリッドシステムの供与をお願いに行った。