グローバル人材の要件は実は「存在しない」

ところが、調査を進めてみると、共通する人材要件は存在しないことがわかったそうだ。報告書作成に関わった委員の1人はこう語っている。

「人材育成やマネジメント、ガバナンスの仕組みから人材要件などの共通要素を取り出し、他社に役立ててもらおうということで始めたのですが、実はそれがない。人材育成や人事管理の手法にしても会社の数だけある。つまり、全部違うことがわかったのです。結果的に各社の事例を紹介することしかできませんでした」

実際に報告書でも「グローバル展開の方法は一様ではなく、各社各様であり、それに伴い各社のグローバル展開に応じた組織・人事マネジメントがある」と言及。グローバル人材の要件についても各社ごとに「求められる人材の資質・能力」は微妙に異なっているのが実態だ。

つまりグローバル人材が欲しいと言っても、その実態は業種や職種によっても異なるし、企業がどのような活躍シーンを求めているかによって違うということだ。

もちろん語学力(英語)があるにこしたことはないが、語学力を優先して海外に送ったところ、うまくいかなかったという話はよく聞く。大手小売業の元経営者はこう語る。

「初めての海外進出ということで、現地の店舗の立ち上げや従業員の採用など店舗の運営を担う人を誰にするのかが問題になりました。最終的な結論は語学に堪能な人を基準に選んで送ったところ、商品の仕入れや人事管理を含めて軌道に乗せられず、ほとんど失敗しましたね。これではまずいということで日本でも売上げ実績の高い店舗の責任者を送ったところ、現地に溶け込んでリーダーシップを発揮し、業績も徐々に上がっていきました」

元経営者に言わせると、日本で管理者として実績を上げている人はグローバルでも通用したということらしい。

同様にアジア地区でコンビニ展開を図っているコンビニチェーンの人事担当者も「たとえば関東の拠点で日本語があまり上手ではない部下の外国人社員のレポート指導を担当するなど懇切丁寧に指導していた社員を現地に派遣したところ、現地でも従業員をうまくまとめて業績を上げています」と語る。