“褒める文化”を強化したい
【川野】社内の仕組みとしては、褒める文化がまだまだ弱いと感じています。成功事例を共有するという制度はあるのですが、もっともっと増やしていきたいところです。もともと我々は店舗数が少ないこともあり、トップと現場の距離が近い会社でした。そのため、社長に見られている、認められているという意識が社員のモチベーションになっていました。現在、約150店舗にまで拡大していますが、、私1人だと物理的に限界があります。それをどのように役割分担すればいいか考えているところです。
【石川】しかも、先ほど話していたように個店経営をしているわけです。共通認識を持つために、何をされているのでしょうか。
【川野】定期的に店長会議があります。そこで私や会長が考えていることを伝えていくことが一つ。また、本社では現状の共有をするために月1回の朝礼もしています。そのほか、最も有効なのはお店に私が直接行って話をするということです。
【石川】さきほど話に出た「お客さんの立場で考える」ということなどを伝えているのでしょうか。
お客さんの声を直接聞くことで腹落ちする
【川野】伝えるだけでなく、自分で感じてもらうような仕組みも必要だと思っています。たとえば、お店では複数人のお客さんに来ていただき、店長がそのお客さんから直接声を聞く、座談会の機会を設けています。私が「もっとお店を綺麗にしよう、商品の鮮度を良くしよう」と言うだけでは足りません。お客さんから、「この前買った商品がいつもと違って鮮度が悪くてガッカリした」、「トイレに行ったらいつもより汚かった」などという意見をもらうと、店長として「よくしていかなければ」と強く感じると思います。そういう伝えるところと、腹落ちする仕掛けの両方をいくつ作れるかがこれからは大切でしょう。
【石川】「何を」言われるかより、「誰に」言われるかは、たしかにポイントになりそうですね。人とのつながりの話に戻せば、実は川野さんとは出身大学が同じで、先日現役学生との交流会にご一緒しましたね。その時、お忙しいにも関わらず、川野さんはお子さんを連れて参加されていました。あの時、本当に人とのつながりを大事にされている方なんだなと、改めて感じたんですよ。
【川野】それは、学生のためになればという思いもありますが、我々の商売の魅力を伝えたいという思いもあり、一生懸命名刺を配って宣伝していました。私の同級生の9割は銀行マン、商社マン、官僚、コンサルです。
【石川】社長みずから(笑)。学生はその価値に気づくのかという気もしますけれど。
【川野】私はそんなに社交的なタイプではありませんが、少しでも世の中や会社を良くしたいという気持ちはあるつもりです。我々の世代はそういう思いを持ち活動している人が増えています。ひとつひとつのつながりからいろいろなところへつながっていくことを大事にしたいと思いますね。
予防医学研究者・医学博士。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部を経て、米国ハーバード大学公衆衛生大学院修了。専門は行動科学、ヘルスコミュニケーション、統計解析など。株式会社キャンサースキャンおよび株式会社Campus for Hの共同創業者。ビジネスパーソンを対象にしたヘルスケア、ウエルネスの講演・執筆活動を幅広くおこなっている。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。著書に『友だちの数で寿命はきまる』『最後のダイエット』(ともにマガジンハウス)、『健康学習のすすめ(理論編)』(日本ヘルスサイエンスセンター)などがある。