父と子を対象に「買い物力アップ体験」
【石川】川野さんの話を聞いていてふと思い出したのが、イギリス人の塩分摂取量が減ったという話です。イギリス政府が、何から国民が最も塩分を摂取しているか調べたところ、パンだということが分かりました。それで、「パンに含まれている塩分含有量を少しずつ減らしてください」と政府がメーカー側にお願いし、10年程かけて少しずつ塩分量を減らししていくことで、少ない塩分でも美味しく感じるように味覚を変えていったそうです。今までは考えなくても良かったことですが、食品を販売する側として、こういった視点も今後は必要になってくるのでしょう。
【川野】ええ。今我々は、食への関心を高めるために、お客さま向けの料理教室をやり始めました。そこでは、「野菜をもっとたくさん使うにはこんな料理があります」などと提案しています。好評だったのは、買い物の際に必要な、商品の目利き力をアップさせようというイベントです。これには父親と子ども、親子2人で参加してもらいます。食材の見方が変わることで、「もう少し野菜を食べてみよう」「この魚を食べてみよう」という動きにつながればいいなと思っています。
【石川】お父さんと子どもでやるというのがまた面白いですよね。そもそも、料理で食材などにこだわりやすいのは男のほうなので(笑)。そういう意味で言うと、お客さんがよりヤオコーを好きになってもらう意味でも、料理教室から入るというのは面白いアイデアですよね。
【川野】ええ。もっと広げていけたらと思います。
お客を引きつけるために必要なものとは?
【石川】そういう長くゆっくり動く業界において、お客さんを惹きつけるというのは考えてみると難しいですよね。ゆっくり変わるものだから、変化が起こってもすぐに影響が出てくるものではなければ、簡単にお客さんが付いてくるものでもない。じわじわとファンを増やしていかなければならない時に、どういう発想をすればいいのでしょうか。
【川野】基本はお客さまの立場から考えることです。お客さまから見て、そのお店に魅力があるか、どういう基準でそのお店を選ぶのかを自分たちで考えて、そこを強めていきます。わが社は方針として、「豊かで楽しい食生活をお客様にお届けする」ということを掲げています。単に不足分を補充するだけの買い物は面白くありません。買い物に行くことで、「こんな食材があるならこう料理してみよう」「今、こういうものが旬なのか」とお客さんに感じ取ってもらえるようにと考えて商売しています。
お客さまから選ばれるお店は、商品の価格だけでなく、品質、立地、接客の善し悪しなど様々な要因によって決まります。「これが正解」というものは、本当にない。お客さまに価値があると感じてもらうにはどうするのかが大事だと思います。
もちろんお店で売っている商品のよさは大切ですが、同じように陳列やメニューの提案など、「買い物の楽しさをどうつくるのか」も大切なのです。