「個店経営」と「全員参加」で差別化

【石川】ヤオコーならではの工夫というのはありますか。

【川野】我々の特徴としては、「個店経営」を掲げ、各店舗に主体性を持たせて商売をしていることです。お客さんの嗜好は、都心に近いか、離れているか、お店の側に若いお客さんが多いか、高齢者が多いかなどで異なります。そういうお店の商圏は、われわれでいえば2キロ程度。その圏内にどういうお客さんがいて、どういうニーズがあるか。そして、どういう提案であればお客さんに響くのかをお店ごとに考えているのです。

ヤオコー社長 川野澄人氏●1975年、埼玉県生まれ。98年東京大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入社。2001年ヤオコー入社。09年取締役、11年常務、12年副社長、13年4月より現職

また、個店経営とセットで「全員参加の商売」をやっていて、パートナーさん(パート社員)のみなさんの意見を聞いています。そこで働く方々は、そこの住人でもあるわけです。主婦の感覚として「これは高い、これは買わない」というものを教えていただき、それを売り場から外すことにしています、お盆やお正月の過ごし方にも地域性があるので、それらもパートナーさんの声を聞いて売り場作りに反映させています。

【石川】本部でまとめてコントロールしたほうが管理コストが安いという考え方もあると思いますが、お客さんの立場で物事を考えるということを重視されているから、自然とそういうふうになっていったということでしょうか。

【川野】まさにおっしゃる通り。ほかよりも人手をかけてたくさんの意見を聞き、細かい品揃えや提案でお客さんに来ていただければと思っています。それに、自分で考えて自分でやるのが最も楽しいと思うので、その主体性を持って仕事をしてもらうということもあります。我々の商売がいいのは、どれが売れたか売れないか、お客さんがどういうふうに買っていったかなどが、目の前で見えることです。お客さんの評価が目に見えるわけですから、やはり目の前で商品が売れれば嬉しいものです。

人とのつながりがみんなのモチベーションにつながった

【川野】モチベーションでいえば、店長や主任と話したり、パートナーさんと話したりすることで、現場で何が起こっているのかということは必ず見るようにしています。

そうでなければ、まず採用ができなくなる。時給を決めるなど、経営に関わる判断を下す際に、実情を押さえておくことで素早く判断できる。また、お店を見て回る中で、「仕事が楽しい」「こんなことがあった」と話してもらえれば、それは私にとっても非常にやりがいにつながることですし、一番のモチベーションです。石川さんは寿命を延ばすには「人とのつながり」が大事だと言っていますが、食品スーパーの仕事は関わる人が非常に多い。お客さんの数も、働いている従業員の数も、扱っている商品も多く、その裏にはさらにそれだけのお取引先様がいます。たとえば店長は、野菜を育てる生産者の方と一緒に生育の計画を立て、「とうもろこしを夏場に500本売りましょう」と決めることもあります。そういう人とのつながりが仕事の楽しさにもなるし、みんなのモチベーションにもなると思います。

【石川】確かにそうですね。人と人とのつながりは、関係性の濃さよりも量が幸福感につながっているといわれています。ものすごくいろんな方にお会いすることで、元気をもらう機会も多いのでしょう。