日本人と言うと、なんだかくそ真面目でユーモアがわからないといったイメージが定着しているようだ。中国で講演するとき、この類いの質問をよく受ける。もちろん、私なりにいろいろな実例を挙げて、こうした誤解が解けるように説明している。その際、よく例に持ち出すのが川柳だ。
しばらく前、ネットで、「僕の嫁 国産なのに 毒がある」「いい夫婦 今じゃどうでも いい夫婦」といった川柳を読んだとき、思わず吹き出してしまった。そのユーモアのセンスに感心したため、どれぐらいの読者がいるのかも考えずに、中国のSNSの1つである微博に川柳を12句ばかりアップした。
もちろん、日本社会、日本の話題、日本人の精神構造などをある程度把握していないと、これらの川柳の面白さを理解できないはずだ。たとえば、「僕の嫁 国産なのに 毒がある」を見よう。輸入野菜の安全性問題がクローズアップされている日本の社会事情を知っておかないと、この川柳に出ている「国産」と「毒」の表現は理解できなくなる。
その意味では、外国人が川柳を解するには、相当な日本通でないと、笑えるポイントをつかめない恐れがある。
しかし、意外なことに、微博にアップしたら、8万数千人の読者がこれらの川柳を楽しんだばかりではなく、コメントもたくさん書いてくれた。これらのコメントを読んでいるうちに、これらの川柳の笑わせどころをみんなしっかりとつかんでいることを実感し、私のSNSの読者群の日本語理解力の高さを肌で体感できた。
この体験があるから、今回の書評の本を選ぶとき、躊躇せずに川柳集ともいえる本書に決めた。
シルバー川柳というだけに、対象や話題はある程度限定されている。本書のページを捲ると、案の定、夫婦間の熾烈な(?)バトルが詠まれている。書名にもなった「断捨離で うっかり夫 捨てそうに」には、私も危機感を共有した。台湾へ飛ぶ飛行機のなかで本書を読んでいたため、「正月に やたらと餅を 食わす妻」に思わず膝を叩き、声を殺しつつ大笑いした。
「この恋を 逃すと後は 天女だけ」「女子高を 見下ろす墓地を ゲットする」「またしても これが最後と 海外へ」といった川柳からは、生きることに打ち込む日本の高齢者たちの意気と精神力が伝わってくる。
「絵手紙で いい味出してる 震える字」「金よりも 大事なものが 無い老後」「基地問題 うちがもめるは 墓地問題」からは、高齢の方々の日々の努力ぶりが目に浮かぶ。
膝を叩いて大笑いしながら読んでいた私は、ふっと川柳の作者たちの年齢に目をやると、冷や汗が一気に噴き出てきた。一部の方より、私はすでに年上だ。